説 教 エレミヤ書17章5〜8節 コロサイ書3章1〜4節「主にある永遠の生命」
２０１６・０９・１１（説教１６３７１６６０） 今朝の御言葉・コロサイ書3章3節4節はこう語り告げます。「あなたがたはすでに死んだものであ って、あなたがたのいのちは、キリストと共に神の内に隠されているのである。わたしたちのいのちな るキリストが現われる時には、あなたがたも、キリストと共に栄光のうちに現われるであろう」。ここで パウロは「あなたがたのいのち」すなわち、十字架と復活の主イエス・キリストに結ばれた私たちの復 活の生命が「キリストと共に神の内に隠されている」と申しています。この「隠されている」とは「最 後の日まで堅く守られている」という意味です。 私たちは復活のキリストに結ばれ、死を超えた永遠の生命を与えられている者たちです。しかしその 私たちといえども、肉体においては死を迎えます。肉体的生命には終わりがあるのです。しかし私たち に与えられているキリストの生命、死を超えた甦りの生命は決して失われず終わることはありません。 それは「キリストと共に神の内に隠されている」のであって、その生命はいま私たちを礼拝者として健 やかに生かしめると同時に、歴史の最後の日まで「キリスト共に神の内に」私たちの全存在を堅く守る ものであるとパウロは教えているのです。そしてその終わりの日、主が再び来たりたもうその日(世界に 救いの御業が完成する日)に「わたしたちのいのちなるキリスト」と共に栄光の内に現われるであろう。 つまり、私たちはキリストの復活のお姿に「あやかる」者とされることが、明確に告げられているので す。 さて、このように私たちは「永遠の生命」を信ずる群れですが、もしもこの「永遠の生命」を、ただ 単に「永続する生命」あるいは「肉体は滅びても魂は生き続ける」と理解するならば、それは聖書の語 る「永遠の生命」とは違うのです。いかなる宗教も多少の意味の違いはあれども、死後なお存続する生 命や意識について何事かを教えています。無神論者であろうとも、死後の生命について漠然とした希望 を抱いているのが普通です。仏教の葬式などでも、故人に対して「草葉の陰で見守っていて下さい」な どと呼びかける場面を見ます。本来の仏教には霊魂不滅の思想はなく、人は死ねば無に帰するのみであ ると教えるのが釈迦本来の仏教ですが、その仏教が日本に伝えられますと、いつしか祖霊崇拝、死者供 養の宗教へと変化していったのです。 明治20年代にわが国にやって来たラフカディオ・ハーン(小泉八雲)は、当時の松江中学校の英語の授 業で「神とは何か」という題で生徒に英作文を書かせました。するとほとんど全ての生徒が「神とは死 んだ人間のことである」と書いたそうです。さしものハーンも非常に驚きました。ハーンはこよなく日 本を愛し、日本文化を深く理解した人ですが、それでも神を“GOD”と理解するハーンは、日本人が持 つ独特の神観念には異質なものを感じたのです。自分はこよなく日本を愛し、日本人の全てを尊敬する けれども「神とは死んだ人間のことである」という日本人の神観念だけはとうていついてゆけないと語 っています。これは決して過去の物語ではなく、現代でもなお大多数の日本人が霊魂の存在や死後の生 命について、漠然とした偶像的理解を持っています。人間はたとえどんなに時代が変わっても、自分の 死の問題を乗り超えることはできないのです。それこそ藁にも縋るような思いで、迷信にさえ頼ってし まうのが人間なのです。そこで偶像(イドラ＝アイドル)を祭り上げるのです。死者が神にすらなってし まうのです。 そこで、もしそういうことが「永遠の生命」であるとするなら、残念ながら古代エジプト人や古代ギ リシヤ人、またはアメリカ・インディアンなどのほうが、はるかに純粋かつ生き生きとした希望を抱い ていたと申さねばなりません。古代エジプト人にとって死後の生命の実在は疑う余地のないことでした。 古代ギリシヤ哲学においても、プラトンに代表される霊肉二元論(霊魂不滅説)は確固たる信念であり、 ソクラテスは従容として毒杯を仰ぎました。中国古代王朝やわが国の古墳時代の墳墓に観られる死後の 生命への願いは、その規模の大きさにおいて現代人を圧倒します。それこそ古代人は、現代人よりも遥 かに確かな死後の希望を抱いていたと言えるでしょう。 私たちが信じる「永遠の生命」とは、そのようなもの(その程度のもの)ではありません。聖書が私た ちに告げる「永遠の生命」とは「肉体は滅びても霊魂は残る」というものではありません。肉体も霊魂 も、それが人間に属するものならば滅びるほかはないのです。滅びないもの、永遠なるものは、神に属 するものだけなのです。ローマ書5章にあるように「アダムに連なるものは滅びるほかなし」なのです。 「神に連なるもののみ永遠に生くべし」なのです。だから聖書が語る「永遠の生命」は「霊魂の不滅」 ではなく「身体のよみがえり」です。人間の一部分が死後も存続するという教えではなく、私たちの全 存在が(身体が)キリストの復活の生命に覆われることです。 そこで、私たちの教会の大切な信仰の遺産“ハイデルベルク信仰問答”の問57と58を引用しましょ う。身体のよみがえり、永遠の生命について、あなたは何を信ずるかと問う箇所です。まず問57の答 え。「わたしの魂が、この生命の終わった後に、直ちに、かしらなるキリストのもとに、受けとられるば かりではなく、このわたしの肉が、キリストの力によって、甦らせられて、再び、わたしの魂と一つに せられ、キリストの栄光のからだに似せられる、ということであります」。そして問58にはこうありま す。「わたしが、いますでに、心の中に、永遠の喜びの初めを受けていますように、この生命の終わった 後にも、人の目もいまだ見ず、人の耳もいまだ聴かず、誰の心にも、今まで浮かんだことのない、完全 なる祝福を持ち、そのうちにあって、神を、永遠に、讃美するようになることであります」。 「肉体は汚れているが霊魂は清い」という霊肉二元論はキリスト教の福音にはありません。仏教の言 葉で申しますなら「欣求浄土・厭離穢土」という思想は主イエスの御教えではないのです。そうではな く、私たちはハイデルベルク信仰問答において、否、聖書の御言葉そのものによって、限りない「神の 真実」に出会うのです。それは、私たちは死んだのち「ただちに、かしらなるキリストのもとに、受け とられる」と告白されていることです。それこそ今朝の御言葉で言う「あなたがたのいのちは、キリス トと共に神のうちに隠されている」(キリストと共に神の内に、終わりの日まで堅く守られている)恵み です。私たちの全存在が、肉体も、心も、魂も、その全てが「ただちに、かしらなるキリストのもとに、 受けとられる」のです。この「受けとられる」と訳された元々のドイツ語は「(主が)抱き止めて下さる」 という言葉です。肉体の死も魂の滅びも超えて、主なるキリストのみが私たちの全存在(身体)を、ご自 身の恵みの御手にしっかりと「抱き止めて下さる」。それが私たちの「救い」そのものなのです。そのた めに主は十字架上に死んで下さったのです。 教会のいちばん高いところに十字架が掲げられているのは、この主イエス・キリストによる永遠の生 命の恵みの確かさを全ての人々に証し告げるためです。私たちは自分の死において何の支配を観るのか。 それは罪と死の暗い支配などではなく「かしらなるキリスト」のご支配の確かさを見いだすのです。そ の永遠の恵みのご支配の内に、今も後も永遠までも、私たちの全存在が「(主に)抱き止められている」 のです。どうか私たちはローマ書8章38節以下の御言葉を心に留めましょう。「わたしは確信する。死 も生も、天使も支配者も、現在のものも将来のものも、力あるものも、高いものも深いものも、その他 どんな被造物も、わたしたちの主きりスト・イエスにおける神の愛から、わたしたちを引き離すことは できないのである」。 この恵みに堅く立って、私たちはローマ・カトリック教会の「煉獄」の教理を否定します。煉獄とは 英語でパーガトリィ(清めの場所)と言います。私たちはキリストによる罪の贖いだけでは天国に行けな い。つまりキリストの救いは不完全なものである。キリストが償いきれなかった罪は煉獄で償われる必 要がある。その償いに用いられるのは聖人の功績(メリット)であるという教理です。ここからカトリッ ク教会では使徒信条の「聖徒の交わり」(Communio Sanctorum)を「諸聖人の通功」と訳します。この 「贖宥の教理」こそルターが生命をかけて否定した「教会史的誤謬」です。ルターの同労者ブリンガー が起草した第二スイス信条に明確な答えがあります。�′淪┐龍詰�は聖書的根拠を全く持たない。�∋� 者の魂はただ神の恵みの主権のもとにあり、人間が支配しうるものではない。��それゆえ「諸聖人の通 功」は間違いである。�い修譴魎霑辰箸垢詭蛤疉�(贖宥券)はキリストの恵みを否定するものである。こ の4点を第二スイス信条は明らかにしました。私たちは十字架のキリストによる罪の贖いによって完全 に救われ、天国に席を備えられた者たちなのです。ただ信仰によって「イエスは主なり」と告白し、教 会において贖い主なるキリストに連なることによってのみ救われ、義とされるのです。 そして、私たちが主から戴いている、死を超えた慰め(救い)はそれだけではないのです。先ほどのハ イデルベルク信仰問答・問58にありましたように「このわたしの肉が、キリストの力によって、甦ら せられて、再び、わたしの魂と一つにせられ、キリストの栄光のからだに似せられる」慰めと幸いと祝 福を、私たちは主から戴いています。本来、私たちの「身体」は罪に支配されたものであって、文字ど おり「朽つべき、滅ぶべき」もの「主の御前に失われていた者」でした。しかし、主はまさに私たちの 「滅び」をもご自身に引き受けて十字架に死んで下さったのです。だから今朝のコロサイ書3章3節で もパウロは「あなたがたはすでに死んだものであって」と言っています。私たちはキリストと共に罪の 古き身体に死に、キリストの賜わる永遠の生命(まことの神との永遠の交わり)に、主の教会によってい ま招き入れられ、堅く主に結ばれているのです。 朽つべき、死ぬべき、失われていた私たちの「身体」が、朽ちないもの、死なないもの、キリストの 賜わる「永遠の生命」に呑みこまれ、覆われた幸いに私たちは生きるのです。「キリストの義」を纏わせ て戴いているのです。そのような者として、キリストの生命の祝福に生かされ、満たされて、生命ある かぎり、否、死を超えてまでも、私たちは神にお仕えし、主の御救いを讃美し、永遠に主と共にあり続 ける者たちとされているのです。そして神は、御子イエスを死者の中から復活させた同じ御力によって、 この私たちの死すべき身体をも、やがて主の来臨のとき、キリストの栄光の御姿に似た者と(主の復活の さまにあやかる者と)なして下さいます。 今そうであるごとくに、永遠に主の教会に結ばれて、私たちは「いますでに、心の中に、永遠の喜び の初めを受けているように、この生命の終わった後にも、人の目もいまだ見ず、人の耳もいまだ聴かず、 誰の心にも、今まで浮かんだことのない、完全なる祝福を持ち、そのうちにあって、神を、永遠に、讃 美するように」ならせて戴けるのです。そこに、この礼拝が永遠に連なる御国のわざであること、そし て私たちの日々の信仰生活が、永遠の御国に連なる僕の歩みであることが現わされているのです。 最後に、ハイデルベルク信仰問答の問1を読んで終わりたいと思います。「(問)生きている時も、死ぬ 時も、あなたのただ一つの慰めは、何ですか。(答)わたしが、身も魂も、生きている時も、死ぬ時も、 わたしのものではなく、わたしの真実なる救い主イエス・キリストのものであることであります。主は ご自身の尊い血をもって、私たちの全ての罪を完全に償い、悪魔のあらゆる力から、私たちを解放して 下さいました」。祈りましょう。