説 教 ホセア書2章14〜20節 エペソ書1章15〜23節「キリストの身体なる教会」
２０１２・０４・１５（説教１２１６１４２６） 今朝のエペソ書の御言葉の中心は「かしら」という言葉にあります。1章22節です「神は …万物をキリストの足の下に従わせ、彼を万物の上にかしらとして教会に与えられた」とあ ることです。主なる神は私たち全ての者を測り知れない罪から救うために、絶大な救いの力 を「キリストのうちに働かせ」たもうた。まさに主イエス・キリストによって救いの御名(私 たちを救う完全な権威)を「あらゆる名の上におかれ」たのです。神のなさったこの救いの出 来事こそ、世界のいかなる罪の現実にも打ち勝つ唯一にして永遠の権威です。それは十字架 と復活のキリストの権威です。その絶大な“キリストの権威”のもとに私たちはいま共に招 き入れられているのです。それが私たちのこの教会です。 そしてすぐ後の23節を見ますと「この教会はキリストのからだであって、すべてのものを、 すべてのもののうちに満たしているかたが、満ちみちているものに、ほかならない」と告げ られています。これこそパウロが書いたエペソ書全体を貫く最も大切な音信です。「教会はキ リストの身体である」という事実の確認です。すると「かしら」という言葉がより明瞭にな るのではないでしょうか。身体には「かしら」（頭）が不可欠です。「かしら」がなければそ の「からだ」に生命はないからです。ですから22節の「かしら」という言葉を、宗教改革者 ルターは最初のドイツ語訳聖書で「第一のもの」と訳しました。それは十字架の主イエス・ キリストを唯一の「かしら」とする教会に連なることにより、私たち一人びとりが主の生命 に甦らされて第2第3の「復活のからだ」に生かされることを示しています。 それゆえにパウロは第一コリント書15章20節では、キリストは私たちのために「初穂」 となられたと語っています。「しかし事実、キリストは眠っている者の初穂として、死人の中 からよみがえられたのである」。「眠っている者たち」すなわち「罪」に支配されていた私た ちの復活（救い）の「初穂」として、まずキリストみずからが復活の生命を現わして下さっ た。その復活の生命を全ての人に与えたもうために、主みずから御自身の“御身体なる教会” をお建てになり、そこに私たちを何の値もなくして招き入れて下さったのです。そこで改め て今朝の御言葉の20節に心をとめますと「神はその力をキリストのうちに働かせて、彼を死 人の中からよみがえらせ、天上においてご自分の右に座せしめ、彼を、すべての支配、権威、 権力、権勢の上におき、また、この世ばかりでなくきたるべき世においても唱えられる、あ らゆる名の上におかれたのである」と告げられています。教会に連なることは、私たちが「罪」 の支配のもとからキリストの「恵み」の御支配のもとに移されたことを意味します。いかな る「権威、権力、権勢」も、罪と死の力さえも、キリストの恵みの力の前には無力なのです。 つまりキリストが唯一の「かしら」として教会に与えられているという事実は、その恵みに よってこそ「教会はキリストの身体である」という事実と同時に、そこに連なる私たちが「キ リストをかしらとする肢体(枝)」となって「いつも全力を注いで主のわざに励む」(�汽灰螢� ト15:58)者とされていることなのです。 この世界は多くの人々にとって、自分の自己実現の場であるように考えられています。能 力や才能のある者、機会や幸運に恵まれた者、強力な後援者（パトロン）を得た者だけが、 より自分の個性を発揮し、自分の力を伸ばし、いわゆる「身を立て名を上げ」ることができ る。立身出世を適えることができる。サクセスストーリーを描くことができる。それこそが 成功した人生である、そのような人生観また価値観を私たちは無意識にせよ持っているので はないでしょうか。しかし大切なことは歌の文句ではありませんが「ナンバーワンではなく、 オンリーワン」ということです。人間の群れの中で先頭に立つことが人生の目的なのではな く、かけがえのない唯一の人生を神の僕たる尊厳と感謝をもって生きることがいちばん大切 なことではないでしょうか。そして「ナンバーワンではなく、オンリーワン」に生きるとい うことは、それを絶対の価値として認めて下さる「主」がおられてはじめて可能なことなの です。主イエス・キリストが唯一の「かしら」にいましたもうとき、はじめて私たちは人生 の本当の目的と意味を知る者となるのです。 私たちの教会の歴史的な信仰告白である1647年の「ウェストミンスター大教理問答」の冒 頭・問1に「人間のおもな、最高の目的は、何であるか」とあり、その答えとしてこう記さ れています。答「人間のおもな、最高の目的は、神の栄光をあらわし、永遠に神を全く喜ぶ ことであります」。私たち現代人はこういう信仰告白に出会うと「では人間の自由はどこにあ るのか」などと小賢しいことを考えるのです。しかし実はここに記されていることこそ、全 ての人間の真の自由と幸いを告げているのではないでしょうか。その拠って立つ聖書の御言 葉こそ今朝のエペソ書1章15節以下です。キリストのみが世界と教会の唯一の「かしら」で あられるという福音です。私たちは人生の「最高の目的」を知らないからこそ間違った道を 歩んでしまうのです。もしくはその「最高の目的」が自己実現にあると考えて却って不幸に なり不自由になり孤独になるのです。聖書はその「人間の最高の目的」は「神の栄光をあら わし、永遠に神を全く喜ぶこと」にあるとはっきりと告げるのです。 だいぶ以前にある新聞の読者投稿欄にこういう記事がありました。ある小学校の理科のテ ストで「氷が溶けたら、何になりますか？」という問題が出たとき、答えはもちろん「水に なる」ですが、ある女の子が「春になります」という答えを書いた。もちろんそれは不正解 なのですが、担任の先生は「あなたの答えはすばらしい」と評価したというのです。そのこ とでその女の子は勉強が好きになり、現在は詩人としてまた国語研究家として良い働きをし ているそうです。これは相対的評価を超えた唯一の価値に対する絶対的な評価です。その答 えを「すばらしい」と評価できたその先生は実に立派な教師であると思います。それならば なおさら、私たちの永遠の「かしら」にして唯一の主なる神は、私たちに対して絶対的な評 価をして下さるのではないでしょうか。他と比較して序列を決めるような評価（相対評価） を主なる神は決してなさらない。親にとってわが子は「かけがえのない」愛するわが子です。 それと同じように主なる神にとっては私たち一人びとりがみな「かけがえのない」絶対の愛 の対象です。ある神学者はこのことを「キリストにおける神の愛は価値追求的な愛（エロー ス）ではなく価値創造的な愛（アガペー）である」と語りました。相手に価値があるから愛 せるというのは「受動的な愛」にすぎないのです。だからエロースの愛は相手に価値が無く なれば愛も冷めるのです。私たちの愛はこのエロースの愛の受動性という限界と破れを持つ のです。要するに自分が好む者だけを愛するという愛です。 しかしイエス・キリストにおける「神の愛」はそういうものではありません。神は御子イ エス・キリストにおいて「この世」を全く愛して下さったとヨハネ伝3章16節に告げられて います。その「この世」とは罪と死の現実の支配する私たちの真相です。罪の極みである私 たちそのものです。その私たちを神はあるがままに限りなく愛して下さった。その神の愛に おいてこそ私たちは「かけがえのない」価値を持つ者とされているのです。キリストにおい て現された神の愛は「価値創造的な愛」です。価値があるから愛するという愛ではなく、愛 することによってその人に限りない永遠の価値を与える愛なのです。それを聖書では「アガ ペー」というギリシヤ語であらわします。これがいかに熾烈な愛であったか、十字架の場面 でこそわかるのではないでしょうか。十字架を背負われてゴルゴタに登られる主イエスに対 して、民衆は（私たちは）「十字架につけよ」と絶叫し、拳を振り上げ、石を投げ、唾を吐き かけ、呪ったのです。その人々のために主は黙って十字架を担い通して下さった。そして十 字架の上から、ご自分を十字架につけた全ての人々のために赦しと祝福を祈られたのでした。 その場に一人のローマの百卆長がいました。ローマ人であり異邦人ですからもちろん神を 信じていなかった人です。このローマの百卆長が最初にキリストを、しかも十字架のキリス トを「神の子なり」と信じる人になりました。すなわち主の弟子たちよりも先に全きキリス ト告白へと導かれ「まことにこの人は神の子であられた」（マタイ27:54）と告白したのです。 まさにそこに初代エルサレム教会の礎が置かれました。バッハはマタイ受難曲の中心をこの 百卆長の信仰告白に置いています。すなわちバッハはマタイ受難曲と共にこの百卆長の信仰 告白にこそ全世界の救いがあることを証しているのです。そこで、この百卆長は初代エルサ レム教会の最初の教会員また長老になった人であったでしょう。聖書の時代から数百年が過 ぎたのちにも、初代エルサレム教会に連なる人々はマタイ伝27章54節を読むたびごとに「あ あここに私たちのかつての長老であったあの百卆長のことが記されている」と神に感謝と讃 美を献げたのではないかと思うのです。 まさにここにこそ「人間のおもな、最高の目的は、神の栄光をあらわし、永遠に神を全く 喜ぶことであります」というウェストミンスター大教理問答の答えの確かな実例があるので す。神の栄光をあらわす者になること、そして永遠に全く神を喜ぶこと、実は人間にとって それがいちばん大切なことなのです。この「神を全く喜ぶ」という字は「まことの礼拝を献 げる」という意味です。栄光と讃美を主なる神にのみ献げ、御言葉に養われ続けることです。 そこにこそ私たちの本当の自由と幸いがあり、人生の意味と目的があるのです。そこにこそ 「第一」ではなく「唯一」である本当の人生の幸いがあるのです。 主イエス・キリストが「かしら」として教会に与えられたという事実は、まさにそのよう な新しい価値観を持つ人生へと私たちを向かわしめるのです。言い換えるなら、主は私たち が生来持っている願いや要求を満足させることを私たちの「救い」とはお考えにならない。 生まれつきの人間が誰でも喜べる、病気が治ったとか、志望校に合格したとか、業績が認め られたとか、財産が蓄えられたとか、そうした喜びとは異なり、またそうした喜びを遥かに 超えて、主イエス・キリストは永遠の神の愛による唯一永遠の救いを私たちに与え、私たち に復活の生命、祝福の生命を与え、御前に健やかに生きる者として下さるのです。 さらに使徒パウロは、朝の御言葉の17節以下において「どうか、わたしたちの主イエス・ キリストの神、栄光の父が、知恵と啓示との霊をあなたがたに賜わって神を認めさせ、あな たがたの心の目を明らかにして下さるように、そして、あなたがたが神に召されていだいて いる望みがどんなものであるか、聖徒たちがつぐべき神の国がいかに栄光に富んだものであ るか、また、神の力強い活動によって働く力が、わたしたち信じる者にとっていかに絶大な ものであるかを、あなたがたが知るに至るように、と祈っている」と語っています。ここに こそパウロの日々の祈りがありました。当時のエペソの教会と同じように、私たちの葉山教 会も日本においていろいろな困難があるかもしれません。しかし私たちはここに真のキリス トの教会を形成する者たちとされています。それは教会の唯一の「かしら」はキリストだか らです。教会に連なることはキリストに結ばれることだからです。私たちはいまあるがまま にキリストの復活の生命に結ばれた者とされ、神の栄光を現わす喜びと自由の人生を歩む者 とされています。私たちの存在と生涯を通して主の限りない愛が輝く祝福にいま私たちは生 かされているのです。