説 教 ホセア書2章14〜20節 エペソ書1章15〜23節「主の御身体なる教会」
２０１８・０７・０１（説教１８２６１７５６） 今朝、私たちに与えられたエペソ書1章22節に「かしら」という大切な言葉が出てきました。「そして、 万物をキリストの足の下に従わせ、彼を万物の上にかしらとして教会に与えられた」。主なる神は私たち全 ての者を、測り知れない罪（滅び）から救うために、絶大な救いの御力を「キリストのうちに働かせ」、ま さに主イエス・キリストという救いの御名（救いの出来事）を「あらゆる名の上におかれ」たのです。神 のなさったこの救いの出来事こそ、この世界を救い祝福する唯一かつ永遠の権威です。その絶大な“救い の権威”のもとに、私たちはいま、主の御身体なる教会に連なることによって、共に招き入れられている のです。 ですから、すぐ後の23節を見ますと「この教会はキリストのからだであって、すべてのものを、すべ てのもののうちに満たしているかたが、満ちみちているものに、ほかならない」と告げられています。こ れこそエペソ書の全体を貫く最も大切な音信です。「教会とはキリストの御身体である」という事実の確認 です。そういたしますと「かしら」という言葉が明確になるのです。身体には「かしら」（頭）が不可欠で す。「かしら」なくして「からだ」は死ぬほかはありません。しかし、この「かしら」なるキリストに教会 によって繋がるなら、私たちは無条件で復活の生命に連なる僕とされるのです。 この幸いについて語るとき、ルターは22節の「かしら」という言葉を、ドイツ語訳の聖書において「第 一のもの」と訳しました。なぜなら、十字架の主イエス・キリストを唯一の「かしら」とする教会に連な ることにより、私たち一人びとりが、主が与えたもう復活の生命に甦る、第二、第三の僕とされるからで す。その確かな救いの喜びを、ルターは「かしら」を「第一のもの」と訳すことによってあらわしたので す。 何よりも、パウロ自から第一コリント書15章20節に、キリストは私たちのために「初穂」となられた と語っています。「しかし事実、キリストは眠っている者の初穂として、死人の中からよみがえられたので ある」。「眠っている者たち」すなわち、罪に支配されていた私たちの復活（救い）の「初穂」（第一のもの） として、まずキリストみずからが復活の生命を現わして下さった。さらに主は、その復活の生命を全ての 人々に与えたもうために、御自身の“御身体なる教会”をお建てになり、そこに私たちを、何の値もなく して招き入れて下さったのです。 そこで、改めて今朝の御言葉の20節を見ますと、そこにはっきりと「神はその力をキリストのうちに 働かせて、彼を死人の中からよみがえらせ、天上においてご自分の右に座せしめ、彼を、すべての支配、 権威、権力、権勢の上におき、また、この世ばかりでなくきたるべき世においても唱えられる、あらゆる 名の上におかれたのである」と告げられているのです。教会に連なることは、私たちが既に罪の支配のも とから、キリストの恵みの御支配のもとに移された「救いの出来事」を意味します。いかなる「権威、権 力、権勢」も、罪と死の力さえも、十字架の主の贖いの恵みの御力の前には無力なのです。つまり、キリ ストが唯一の「かしら」として教会に与えられているという事実は、その恵みによってこそ「教会はキリ ストの身体である」という事実もさることながら、そこに連ならしめられている私たちが、「キリストをか しらとする肢体(枝)」となって、「いつも全力を注いで主のわざに励む」(�汽灰螢鵐�15:58)者とされてい る幸いなのです。 この世界はいろいろな意味で、私たちの自己実現の場であるように考えられています。能力や才能のあ る者、幸運に恵まれた者、強力な後援者（パトロン）を得た者などが、より自分の個性を強く発揮し、自 分の力を伸ばし、いわゆる「身を立て名を上げ」ることができる。立身出世が適う。サクセスストーリー を描くことができる。それこそが成功した人生だという人生観また価値観を、私たちは無意識にも持って いるのではないでしょうか。 私は歌謡曲というのをほとんど聞きませんが、いわゆるJポップと言うのでしょうか？。ある歌の文句 に「ナンバーワンではなくオンリーワン」という歌詞があって、それがとても心に残りました。そこで思 いました。「ナンバーワン」だけを目指そうとする社会の中にあって「オンリーワン」が価値を持つために は、それを絶対の価値として認めて下さる「主」がおられることが絶対条件なのです。端的に言うなら、 主イエス・キリストがおられなければ、「オンリーワン」は意味を持たない単なる掛け声にすぎなくなるの です。 ある小学校の理科の問題に「氷が溶けたら何になりますか？」という問題が出ました。理科の問題です から、答えはもちろん「水になる」です。ところがある女の子が「春になります」という答えを書きまし た。もちろんこれは不正解なので〇をつけられないのですが、担任の先生は〇の代わりに「すばらしい！」 と書いたそうです。これは相対的評価を超えた、唯一の価値に対する絶対的評価です。たとえ間違ってい ても、あなたの答えは「すばらしい！」と評価できた、その先生は実に立派な教師であると私は思います。 主なる神は、私たちに対して、絶対的な評価しかなさらないかたです。他と比較して序列を決めるよう な評価（相対評価）を主なる神は決してならない。親にとってわが子は「かけがえのない」愛する唯一の わが子です。それと同じように、主なる神にとっては、私たち一人びとりがみな「かけがえのない」唯一 絶対の愛の対象なのです。ある神学者はこのことを「キリストにおける神の愛は、価値追求的な愛（エロ ース）ではなく、価値創造的な愛（アガペー）である」と申しました。私たち人間の愛は、相手に愛する に価する価値があるからこそ愛する愛です。言い換えるなら、相手に愛に値する価値がなければ、愛する ことはできない。または、最初は愛せても、価値がなくなれば愛もなくなるのです。私たちの愛は相対性 という限界と破れを持つのです。 主イエス・キリストにおける神の愛は、そのようなものではありません。神は御子イエス・キリストに おいて「この世」を愛して下さったと、ヨハネ伝3章16節にありますが、その「この世」とは、罪と死 の現実の支配する私たちの真相です。罪の極みである私たちそのものです。その私たちを神は、あるがま まに限りなく愛して下さった。そしてご自身の全てを十字架において、私たちの罪の贖いとして献げて下 さった。その神の永遠の愛において、はじめる私たちは「かけがえのない」価値を持つ者とされるのです。 「オンリーワン」たりうるのです。 主イエス・キリストが「かしら」として教会に与えられたという事実は、そのような新しい価値観を持 つ人生へと、私たちを向かわしめるものです。言い換えるなら、主は私たちが生来持っている願いや要求 を満足させることを、私たちの「救い」だとはお考えにならない。その意味でキリスト教は“御利益宗教” とは異なるのです。生まれつきの人間が誰でも喜べる、病気が治ったとか、志望校に合格したとか、業績 が認められたとか、財産が蓄えられたとか、そうした喜びとは異なって、またそうした喜びを遥かに超え て、主イエス・キリストは、人間が生来持っている自己愛とは異質の“神の愛”を私たちに与え、その“神 の愛”によってこそ「オンリーワン」として、喜んで健やかに生きる僕として下さるのです。 さて、骨の髄まで「自己愛」に支配された私たちが、神の愛によってオンリーワンの存在になるために は、私たちの心に神の力である聖霊が注がれる必要があります。このことをカルヴァンは「キリスト教綱 要」という本の中でこう語っています。「われわれは福音において、われわれに提供されている宝がどれほ ど優れたものであるかを十分評価することが決してできない。…これほどの幸福を自分が受けたのだとい う事情を、どうしても納得することができない。…それゆえに、キリストによる救いを真実に喜ぶために は、神の力強い御力の働き（聖霊の働き）がどうしても必要である」。 ここでカルヴァンが語っていることは、たいへん興味ぶかいことです。なぜ私たちには、キリストが与 えておられる「宝」の素晴らしさがわからないのか。それは「これほどの幸福を自分が受けたのだという 事情を、どうしても納得することができない」からだというのです。私たちはしばしば、それと正反対の 思いを抱くのではないでしょうか。自分に神の恵みがわからないのは、神が自分にそれほどの恵みを下さ っていないからだと思うのです。神のせいにしてしまうのです。そしてすぐに「自分には信仰がないのだ」 と決めつけるのです。「自分はキリストの御手から離れているのだ」と思いこむのです。神が私たちをある がままに、主の御身体なる教会に招き入れていて下さっているのに、主の恵みによって立ち上がろうとは せず、むしろ自分の思いこみの中に蹲ってしまう私たちなのです。 どうか覚えましょう。キリストは既に、ご自身の来臨と十字架によって、私たち全ての者に対して、絶 大な恵みの（救いの）御力を注いでいて下さっているのです。そこに何の不足も無いのです。カルヴァン が語るように、信じられないほどの「宝」を与えて下さったのです。滅びの子でしかありえなかった私た ちに、魂の放浪者でしかなかったこの世界に、十字架による罪の唯一絶対の贖いを与えて下さった。そし て、三位一体なる神の永遠の愛の交わりの内に、私たちをあるがままに「主の御身体なる教会」によって 招き入れて下さったのです。それこそ絶大な「宝」であり「信じられないほどの幸福」ではないでしょう か。 そして改めて、今朝の御言葉の17節以下を心に留めましょう。「どうか、わたしたちの主イエス・キリ ストの神、栄光の父が、知恵と啓示との霊をあなたがたに賜わって神を認めさせ、あなたがたの心の目を 明らかにして下さるように、そして、あなたがたが神に召されていだいている望みがどんなものであるか、 聖徒たちがつぐべき神の国がいかに栄光に富んだものであるか、また、神の力強い活動によって働く力が、 わたしたち信じる者にとっていかに絶大なものであるかを、あなたがたが知るに至るように、と祈ってい る」。 ここに、パウロの日々の熱き祈りがありました。エペソの街は異教の女神アルテミスの神殿を中心に建 てられた、いわば宗教都市でした。ですからエペソの教会は常に異教社会との確執を抱えており、信徒の 間に絶えず信仰の動揺があったのです。それは「教会が何であるかがわからなくなる」ことでした。教会 という信仰生活の母体を見失って、自分たちは本当に、キリスト者として健やかに立ちうるのだろうかと いう不安があったのです。そのような数々の困難の中で、パウロは、教会的信仰の確立に全力を注ぎまし た。教会はサークルや同好会や株式会社のように、人間的利害得失を共通基盤とする組織ではありません。 教会は主イエス・キリストがご自身の尊い御血をもって贖い取って下さった、全ての人たちに永遠の生命 を与えるキリストの御身体なのです。 教会の唯一の「かしら」はキリストです。教会に連なることはキリストに結ばれることです。そこで私 たちはあるがままに、キリストの復活の生命に結ばれた者とされているのです。もはや自分の願いや欲望 を主とすることなく、神の御心に仕える僕としての人生を歩む者とされているのです。神の栄光を現わす 喜びの人生です。私たちの存在と生涯を通して、キリストの限りない愛が輝く幸いと祝福に、いま私たち は共に生かされているのです。このことを覚え、感謝をもって、新しい一週間も「主の御身体なる教会」 に連なって歩む、私たちでありたいと思います。祈りましょう。 1 1