説 教 エゼキエル書3章1〜3節 マタイ福音書4章4節「生命の御糧」
２０１７・０９・１７（説教１７３８１７１４） 現在ではもう、ほとんどの教会で新共同訳聖書を使うようになりましたので、残念ながら私たち葉山教 会の日曜学校でも、子供用の聖書というものが無くなってしまいました。今では大人の使う詩篇つきの新 約聖書を生徒たちにも使わせていますけれども、少し以前までは、子供用の聖書の扉の部分に「日曜学校 生徒の五つのお約束」とあって、次のように書いてあったものです。「一、せいしょをよむ。二、おいのり をする。三、日曜学校をやすまない。四、けんきんをする。五、おともだちをさそう」。 この五つの項目はそのまま、私たちの信仰生活（教会生活）にも当てはまるものです。大人の言葉に変 えるならこのようになるでしょう。�� 聖書に親しむ。�� 日々祈りを献げる。�� 聖日礼拝厳守。�じザ發� ささげる。�ヅ粗察０幣紊慮濤猝椶量海瓩任后�つまり「聖書」「祈り」「礼拝」「献金」「伝道」の五項目で す。まことに基本的なことで「何をいまさら」と言われてしまいそうです。日曜学校の生徒たちでさえみ な守り務めている、当然のごときキリスト者の歩みです。しかし私たちはこれらの大切な五項目を、本当 に「当然のこと」としているでしょうか。 むしろ、信仰生活の長い人でも、えてしてこの大切な基本を忘れていることはないでしょうか。たとえ ば「献金」ひとつを取ってみても、私たちは生活費の中から「余ったら献げる」ように思っていることは ないでしょうか。かつての私たちの先達たちは、毎月の所得の中から、まず献金を感謝と祈りをもって聖 別したものです。そうして文字どおり「十分の一献金」を献げたのです。そうした精神を「古臭い」と笑 うことは簡単です。問題は現在の私たちの信仰生活が、主の御前に正しいものになっているか否かという ことです。 そこで、今朝は与えられたエゼキエル書3章1〜3節の御言葉を通して、特に第一の「聖書に親しむこ と」すなわち「教会は御言葉によって建ちもし倒れもする」ということを、ご一緒に学んで参りたいと思 います。 「最近のキリスト者は、聖書に親しまなくなってきている」と聞いたことがあります。それが事実であ るなら、私たちの信仰の根幹にかかわることです。現代世界においてもなお、人類の問題のほとんどは「生 命の糧」をめぐる争いであると言って過言ではありません。問題は「私たちを真に生かす、本当の生命の 糧とは何であるか？」ということです。主イエスは「人はパンのみにて生くるにあらず。神の御口より出 ずる一つひとつの言葉によるなり」と言われました。主は私たちに真の生命を与える唯一の糧が「神の言 葉」であることを明確にお教えになったのです。 キリスト教会の礼拝の歴史は2000年にもおよびますが、その歴史の中で最近の百年間だけを見ますと、 礼拝における御言葉の位置づけは変化してきているように思います。私の書斎に今から約200年前に書か れた、アメリカの18世紀の神学者による“ユダ書の連続講解説教”があります。ピューリタン時代の説 教を知ることができます。ユダ書は僅か1章ですが、その講解説教が500ページぐらいあるのです。英文 の500ページは日本語に直したら1000ページ近くになるでしょうか。一つひとつの説教の長さは、たぶ ん日本語に直したら2時間ぐらいの説教になるはずです。 そこで単純素朴に思いました。葉山教会で仮に私が毎週2時間の説教を行なったら、みなさんはどのよ うな反応を示すだろうか。皆さんはそれでも聴いて下さると思いますが、200年前の改革長老教会の礼拝 というのは約3時間続いたのです。それが今では説教は普通30分、礼拝全体の時間もせいぜい1時間と 少しです。逆に申しますなら、ちょうど現在、私たちがテレビを観ているのと同じぐらいの時間を、200 年前のキリスト者たちは聖書を読むのに用いていたわけです。私たちは2〜3時間テレビを観ていてもべ つに「疲れた」とは感じないでしょう。かつてのキリスト者たちは同じ時間を、日々聖書に親しむのに用 いていたのです。 初代教会の礼拝はさらに真剣なものでした。当時のローマ帝国においては休日という概念そのものがな く、一年365日全てが出勤日でした。ですからキリスト者たちは日曜日も、仕事が終わって夜になってか ら、疲れた体を励まして礼拝に集まり、そこで感謝と喜びに溢れて神を讃美したのです。使徒行伝20章7 節以下に、使徒パウロを迎えてトロアスにおいて献げられた礼拝の様子が描かれています。それを見ると 「パウロの話がながながと続くので」とあり、ついに眠気に耐えかねた「ユテコ」という青年が3階の窓 から、テラスから落ちて意識を失い、パウロによって蘇生させられるという場面があります。これを見て もわかるように、当時の初代教会の説教は、現在の私たちの礼拝の説教とは比較にならないほど長かった のです。 さて、このような、礼拝における説教や聖書朗読の位置づけの問題のほかに、たぶんこのほうがより深 刻な問題なのですが、現代の教会においては、聖書が「教会の拠りて立つべき唯一の神の言葉」として読 まれなくなってきている、という問題があります。特にそれは1970年代の終わりごろから、欧米のいわ ゆる「自由主義神学」の傍流がわが国に流入してきたことと関係があります。この立場の人々によれば、 聖書というものは古文書の一つにすぎない。最初から「神の言葉」という権威などはないのだ、というの です。だからどんな解釈をしても構わないし、極端に言うなら聖書でなくても宜しいわけです。そういう 誤った立場に対して、私たちはキリスト告白に基づく公正毅然たる対応ができなくてはいけません。 問題を歴史的に見るなら、私たち福音主義の教会（プロテスタント教会）の歴史は、聖書を神の御言葉 として聴き、宣べ伝え、生きるための戦いでしたし、それは今でも変わりはないのです。宗教改革者マル ティン・ルターの生涯がまさにそうでした。よく宗教改革のことを、当時のローマ・カトリック教会の腐 敗堕落に不満を持った人々が新しい教会を建てたのだと考える人がいますが、それは間違いです。ルター が行なった教会改革の本質は、新しい教会を造ろうとしたことではなく、初代教会（聖なる公同の使徒的 教会）という生命の幹から離れてしまった歴史的教会を、再び元の幹に結んで生命を回復しようとしたこ とです。だから宗教改革のことをフランス語で“レフォルマシオン”と言うのです。何よりも大切なこと は、教会が聖書を“まことの神の唯一の御言葉”として正しく聴き、宣べ伝え、生きる群れになることで した。 そのために、様々な魔術的要素が絡んでいたミサ聖祭をレフォルム（改革）して、御言葉が中心である 真の礼拝、聖書的礼拝を回復したのです。宗教改革の本質は礼拝改革です。そして礼拝改革の本質は、聖 書を神の言葉として正しく聴く群れを形成することでした。そのために不必要なものを排除し、必要不可 欠なものを回復したのが宗教改革なのです。ルターは1522年から1535年までの13年間を費やして、そ れまでラテン語でしか読めなかった聖書をギリシヤ語とヘブライ語の原文から、誰でも読むことのできる ドイツ語に翻訳します。これが世界で最初に国語に翻訳され、今でもドイツの教会で用いられている「ル ター訳聖書」です。500年前の聖書の翻訳が今でも多くの人々に親しまれているのです。 先ほども申しました、主イエスが悪魔の誘惑に対して毅然として宣言なさった勝利の御言葉、それこそ が旧約・申命記8章3節にある「人はパンのみにて生くるにあらず、神の御口より出ずる一つひとつの言 葉によりて生くるなり」でした。そこで、この「神の御口より出ずる言葉」という語句はラテン語で“viva vox”と申します。「生ける御言葉」「生命の御糧」という意味です。ルターがとても大切にした言葉です。 人に真の救いと生命を与える“viva vox”唯一の神の御言葉、生命の糧、それを正しく聴き、真の礼拝を 回復することこそ、私たちの教会の終始一貫した主にある志です。来たる10月31日が宗教改革500年の 記念すべき日ですが、宗教改革の本質はまさに教会にとっての“viva vox”「生命の御糧」の回復にあった のです。 今朝のエゼキエル書3章1節以下に、巻物を「食べる」という言葉が出てきます。あなたの口を開いて、 わたしがあなたに与える巻物を（御言葉を）食べなさいと、主なる神は繰返しエゼキエルに命じたまいま した。2章8節から3章3節までの6節の間に「食べる」という動詞が6回も出てきます。そこで、この 「御言葉を食べる」という言葉は、ただ単に聖書の御言葉を「目で読む」というだけのことではありませ ん。または「聖書を学問的に研究する」という意味でもありません。聖書をいくら学問的に研究しても、 キリストを救い主として見出さないような読みかたは、聖書を「食べる」読みかたではないからです。 日本の教会の歴史を、生涯かけて研究してきた大内三郎という学者がいます。この人が日本における宣 教百周年を記念して「聖書と日本」という本を書きました。この中で大内氏は、私たち日本人の聖書の読 みかたが「いっけん熱心なようでありつつ、実は決して、御言葉そのものに変革される読みかたではなか った」と語っています。大いに反省せねばなりません。新約のヘブル書4章12節には「神の言は、生き ていて、力があり、もろ刃のつるぎよりも鋭く、精神と霊魂と、関節と骨髄とを切り離すまでに刺しとお し、心の思いと志とを見分けることができる」とあります。聖書を正しく読むということは、その御言葉 によって自分が打ち砕かれ、キリスト中心の歩みに変えられることです。本当に生まれ変わることです。 神の民にされることです。御言葉を通して活ける主イエス・キリストに出逢うことです。 今朝のエゼキエル書をよく読みますと、3章2節には、主なる神がエゼキエルに御言葉を「食べさせた」 とあります。エゼキエルがしたことは、口を開いたことだけです。それは信仰を意味しています。その開 かれた口に、主なる神は御言葉を「食べさせ」て下さった。すると3節の終わりですが「わたしがそれを 食べると、それはわたしの口に甘いこと蜜のようであった」と記されています。この「甘い」とは、それ が「人を生かす救いの言葉」であったことを示しています。言い換えるなら、私たちは聖書を聖霊なる神 の導きによって正しく読むとき、人類のいっさいの罪を担って十字架にかかって下さった神の御子イエ ス・キリストに出逢うのです。真の神がこの世界を救うためになして下さった救いの御業を知るのです。 それこそが、私たちの口に「蜜のように甘い」と言われるゆえんです。これは紀元前594年、今から2611 年前の出来事です。 聖書以外の他の古文書は、ハンムラビ法典であろうと、ギルガメシュ叙事詩であろうと、それらは全て 土の中から発掘され、翻訳されて、ただ読めるというだけにすぎません。しかし聖書は違います。聖書は 連綿として、生ける神の御言葉として、私たちを救う「生命の御糧」として、説教によって宣べ伝えられ、 これを食べて養われ、これによって新たな生命を与えられ、神と共にある希望の人生、キリストに贖われ た幸いの人生を生き抜いた人々によって、繰返し食べられ、礼拝共同体によって語られ、今もなお活ける 「人を生かす救いの言葉」として全ての人々に与えられているものです。私たちはこの「生命の御糧」に、 日々親しむ幸いを、喜びを、与えられているのです。祈りましょう。