説 教 イザヤ書32章15節 ガラテヤ書1章11〜12節「キリストを証する聖霊」
ペンテコステ ２０１５・０５・２４（説教１５２１１５９１） 私たちの教会の歴史の源流を辿りますと、根本的にはもちろん主イエス・キリストによって神ご自身の 聖意に至るのですが、歴史的にわが国最初のプロテスタント教会の起源を求めますなら、それは1872年 （明治5年）に現在の横浜大桟橋の入口にある日本基督教会・横浜海岸教会の建つ場所で行なわれた、ア メリカ改革派教会のジェームス・バラ宣教師による初秋祈祷会が始まりです。いまも横浜海岸教会の中庭 にその記念碑が建っています。小さな石碑ですが印象的なものです。そこには今朝も拝読したイザヤ書32 章15節の御言葉が漢文で刻まれ、そして台座に「日本基督公会発祥地・1872年3月10日」と刻まれ、 イザヤ書32章15節の御言葉が「元始聖句」（始めの聖句）として刻まれています。 この「元始」という字は漢文では、創世記1章1節「始めに神、天と地とを創造したまへり」の「はじ めに」の部分に用いられている言葉です。つまり、わが国の最初の教会はこのイザヤ書32章15節の御言 葉により、聖霊によってクリエイト（創造）された群れであるということです。これは忘れてならない大 切な事実です。私たちの教会はその歴史の最初から、御言葉と聖霊によって建てられた群れであったので す。1871年（明治4年）の春頃から、国禁を犯して（つまり生命がけで）バラ宣教師の元で英語の聖書 を学んでいた十数名の青年たちが自分たちの意思で初秋祈祷会を始めたのが1872年（明治5年）の元旦 のことでした。その記念すべき元旦の朝、バラ宣教師が説教したのが、このイザヤ書32章15節でした。 この初秋祈祷会は一月が過ぎても終わらず、2月になり3月になり、3月10日に至って聖霊による回心が 起こり、青年たちはバラ宣教師から洗礼を受けるに至ります。その中には植村正久、山本秀煌、本多庸一 といった人々がいました。 彼らは直ちにバラ宣教師に日本最初のキリスト教会設立を願い、バラ宣教師みずから仮牧師となり、続 いて青年たちの中から４名の長老が選出せられ、その教会は「横浜日本基督公会」と名づけられました。 それが私たち葉山教会の直接の起源であります。その意味で1872年3月10日という日は、私たちにとっ て忘れることのできない日であります。この「日本基督公会」は、やがて他の長老教会と合流して「日本 基督一致教会」となり、そして1890年（明治23年）に私たちの教会が今でも告白している「日本基督教 会信仰の告白」を制定して「日本基督教会」へと発展していったわけです。 改めてイザヤ書32章15節を読みましょう。「しかし、ついには霊が上から、われわれの上にそそがれ て、荒野は良き畑となり、良き畑は林のごとく見られるようになる」。この「霊」とは主なる神の「霊」で あり、聖霊のことです。主イエス・キリストを証する“神の霊”です。カルヴァンは「聖霊は私たちを永 遠にキリストへと結ぶ帯である」と語りました。何よりもこれは、過去のことではなく、現在の、そして 将来の、全世界への救いの約束です。私たちは聖霊によって、キリストを主(救い主)と告白し、永遠にキ リストに結ばれた者とせられるのです。「聖霊によらなければ、だれも『イエスは主である』と告白するこ とはできない」（�汽灰螢鵐�12:3）のです。そこにキリストの教会が建てられます。聖霊は教会をお建て になるかたです。教会は聖霊による神の宮であり、キリストの御身体です。そこに私たちは恵みによって 招かれ、永遠の生命を与えられ、御言葉に与る者とされているのです。 そこで、使徒パウロは今日のガラテヤ書1章11節と12節においてこのように語っています。「兄弟た ちよ。あなたがたに、はっきり言っておく。わたしが宣べ伝えた福音は、人間によるものではない。わた しは、それを人間から受けたのでも教えられたのでもなく、ただ、キリスト・イエスの啓示によったので ある」。この「はっきり言っておく」とは「神の真実において語る」という意味です。神の真実において語 ることは、福音そのものです。パウロはすでに、このガラテヤ書の冒頭の部分で、今日の御言葉と似たメ ッセージを語っています。1章1節に「人々からでもなく、人によってでもなく、イエス・キリストと彼 を死人の中からよみがえらせた父なる神とによって立てられた使徒パウロ」とあることです。今日のとこ ろでは、さらに「キリスト・イエスの啓示」という事柄に重点が置かれています。私たちはまことの神を、 私たちのために主イエス・キリストがなして下さった、全ての御業によって正しく知る者とされているの です。それが「キリスト・イエスの啓示」ということです。この「啓示」とは「明らかにする」という意 味です。 それならば、このキリストを私たちに明らかにして下さるかたこそ聖霊なのです。私たちは御言葉によ って、教会を通して働きたもう神の聖霊によって、キリストを正しく知る者とされているのです。言い換 えるなら、私たちは聖霊によってキリストご自身に出会っているのです。それが「イエス・キリストの啓 示」です。だからパウロは今朝の御言葉で「わたしは、それを人間から受けたのでも教えられたのでもな く、ただイエス・キリストの啓示によったのである」と明確に語るのです。「百聞は一見に如かず」と申し ますが、聖霊によって現臨したもうキリストによって神を知ることほど確かなことがあるでしょうか。パ ウロは、それこそどんな人間の知恵やわざにも遥かにまさることだと言うのです。自分が宣べ伝えた福音 は聖霊なる神の御業であるとっているのです。 だからこそパウロは、それを「はっきりと」すなわち「神の真実において」語らざるをえませんでした。 私たちは人間の作り事や知恵によって左右される群れではなく、ただ聖霊によって永遠に私たちと共にお られる、イエス・キリストによって救われ、義とされた者の群れなのです。それがこの教会であり、私た ちはこの教会に全ての人々が招かれていることを知るゆえに、折を得るも得ざるも伝道に励むのです。で すから今日はペンテコステ（聖霊降臨日）の主日礼拝ですが、このペンテコステの出来事は過去二千年前 の教会の誕生を記念するのではないのです。そうではなく、私たちは今ここにおける、神のなさる救いの 御業に連なる者とされているのです。礼拝者とされているのです。御言葉によって絶えず導かれ、新たに されてゆく喜びに生きる民とされているのです。かつて1872年3月10日に、私たちの信仰の先達である 日本基督公会の人々が受けた救いの喜びと、同じ喜びにあずかる者とされているのです。 イザヤ書32章15節は語ります。「しかし、ついには霊が上から、われわれの上にそそがれて、荒野は 良き畑となり、良き畑は林のごとく見られるようになる」と。この「荒野」とは生命の絶えた砂漠であり、 私たち人間の測り知れない罪の現実をさしています。いま、地球温暖化現象により、全世界で急速な砂漠 化が進んでいますが、専門家によりますと、いちど砂漠化した土地を緑地に甦らせることは非常に難しい そうです。ただ水を撒けばよいというものではないのです。気象条件そのものが、ほとんど雨が降らない 砂漠型の気候になってしまっているからです。パイプを引いて水を撒くことはできても、緑地が回復する ほどの降雨量を回復させることは至難のわざなのです。それはそのまま、私たち人間の人生の現実にあて はまるのではないでしょうか。よく虚しいことを譬えて「焼け石に水」と申しますが、人類はそれこそ「焼 け石に水」のような虚しい慰めを求めて、砂上の楼閣のような人生の幸福を謳歌しているだけではないで しょうか。やがて確実に死が訪れ、全てが虚しくなるのを、如何ともしがたい私たちなのです。これでは いけない、このままでは、“来るべき死”にさえ何の備えもできていないと気がついても、それはちょうど 砂漠と化した土地のようなもので、慌ててどんなに懸命に水を撒いても虚しく砂に吸われるだけで、決し て緑地とはなりません。せいぜいできることは、長生きしたと自己満足をすることぐらいです。平均寿命 を生きたと、だから幸福であったと、そう錯覚するだけのことです。 人間はそういうものでしょうか。そうではありますまい。私たちは神がお造りになったかけがえのない 人格です。神がご自身の御子をさえ賜ったほどに愛して下さった者たちなのです。過日、私たちはュにあ る兄弟松尾柾夫さんの葬儀を行ないました。松尾さんの晩年の5年間は重い病気との闘いの日々でした。 家族の人たちも本当に大変であった。しかしその年月の中でこそ、兄弟は信仰を与えられ、洗礼へと導か れたのでした。聖なる公同の使徒的なる教会に結ばれ、聖霊なる神の導きのもとに新しい復活の生命に覆 われた歩みをしたのです。その人生の日数は長いものではなかった。しかし彼の人生は、聖霊によってキ リストに結ばれた、限りなく豊かな意味ある、祝福を他の人々に告げるものとされたのです。それは私た ち一人びとりにも、いま聖霊によって与えられている恵みではないでしょうか。 生命のありえなかった砂漠のごとき私たちの現実さえも、そして世界の現実さえも、神は聖霊によって 「良き畑」となしたまい、あまつさえ「林のごとく見られる」ようにすらして下さるのです。この「林」 とは、数々の樹の実をみのらせ、たくさんの生命を育む生命の森のことです。砂漠であった土地が、その ような森林へと変えられる、この驚くべき奇跡こそが、聖霊なる神の御業なのです。この世界に、このピ スガ台に、キリストの贖いに生きる教会が建てられていること。そして、キリストのみを宣べ伝え、証し ていること。そこに、全ての人々が招かれていること、その喜びと幸いを知る私たちは、使徒パウロと共 に、「神の真実において」語らざるをえません。私たちも「それを人間から受けたのでも教えられたのでも なく、ただイエス・キリストの啓示によったのである」と。 私たちの教会は、聖霊によって建てられた、全ての人がキリストの復活の生命にあずかる恵みの共同体 です。私たちはここにおいてキリストの御身体に永遠に結ばれた者となります。そして神の生命に甦らさ れて生きる人生を始めます。その生命は永遠に私たちから離れることはない、まことの生命です。神が御 子イエス・キリストを賜わったほどに、極みない愛を私たちに注いで下さっておられる。その愛の内に、 私たちの全存在、全生涯が、主の恵みをあらわすものとされているのです。すでに、キリストの勝利の御 手の内に堅く支えられ、守られているのです。 今日のペンテコステ礼拝はその意味で、キリスト教会の誕生をいまここにおける私たちの救いの恵みと して感謝し讃美するものです。私たちは世々の聖徒らと共に、ますます喜んで神に仕え、教会生活を重ん じ、主の僕たる歩みをなす者でありたいと思います。