説 教 ホセア書2章14〜20節 エペソ書1章15〜23節「 主の御身体なる教会 」
２０１４・０７・２０（説教１４２９１５４６） 今朝の御言葉・エペソ書1章22節に「かしら」という印象ぶかい言葉が出てきます。「（神は）万物 をキリストの足の下に従わせ、彼を万物の上にかしらとして教会に与えられた」とあることです。主な る神は私たち全ての者を、測り知れない罪（滅びのさま）から救うために、絶大な救いの御力を「キリ ストのうちに働かせ」主イエス・キリストの御名のみを「あらゆる名の上に（全ての人の救いとして） おかれた」のです。この主の御名こそ神のなさる救いの出来事です。キリストご自身です。この唯一の 「御名」つまりキリストご自身の御身体として教会は建てられています。そこに私たちはいま、ただ恵 みによって連なる者たちとされているのです。 そのことは続く23節に明らかです。「この教会はキリストのからだであって、すべてのものを、すべ てのもののうちに満たしているかたが、満ちみちているものに、ほかならない」。これこそエペソ書全体 を貫く最も大切な音信です。「教会はキリストの身体である」という恵みの事実の確認です。パウロにと って「かしら」という言葉はたいへん明確でした。私たちの身体には「かしら」が（頭が）不可欠です。 もし「かしら」がなければ、その「からだ」は死ぬほかはありません。ですからルター訳の聖書では22 節の「かしら」が「第一のもの」と訳されています。それは十字架の主キリストを唯一の「かしら」と する教会に連なることによって、私たち一人びとりがキリストの復活の生命にあずかる、第二、第三の 者となる恵みを現しています。 ですからパウロは第一コリント書15章20節で、キリストは私たちのために「初穂」となられたと語 っています。「しかし事実、キリストは眠っている者の初穂として、死人の中からよみがえられたのであ る」。「眠っている者たち」すなわち、罪に支配されていた私たちの復活（救い）の「初穂」として、ま ずキリストみずから復活の生命を現わして下さった。その復活の生命を全ての者に与えたもうために、 主みずからご自身の“御身体なる教会”をお建てになり、そこに私たちを何の値もなく招き入れて下さ ったのです。ここに教会が「キリストの御身体」と呼ばれる根拠があります。 そうすると今朝の御言葉の20節の意味も明らかではないでしょうか。「神はその力をキリストのうち に働かせて、彼を死人の中からよみがえらせ、天上においてご自分の右に座せしめ、彼を、すべての支 配、権威、権力、権勢の上におき、また、この世ばかりでなくきたるべき世においても唱えられる、あ らゆる名の上におかれたのである」。教会に連なることは、私たちが既に罪の支配のもとから、キリスト の恵みのご支配のもとへと移されたことです。いかなる「権威、権力、権勢」も、罪と死の力さえも、 キリストの恵みの前には無力なのです。キリストが唯一の「かしら」として教会に与えられているとい う事実は、その恵みによってこそ「教会はキリストの身体である」という事実もさることながら、そこ に連ならせて戴いた私たちが「キリストをかしらとする肢体(枝)」となって、「いつも全力を注いで主の わざに励む」(�汽灰螢鵐�15:58)者とされていることなのです。 この世界はある意味で、私たちの「自己実現の場」であるように考えられています。能力や才能のあ る者、幸運に恵まれた者、強力な後援者（パトロン）を得た者などが、より自分の個性を発揮し、自分 の力を伸ばし、いわゆる「身を立て名を上げ」ることができる。立身出世を実現することができる。サ クセスストーリーを描くことができる。それこそが「成功した人生」であるという、そのような人生観 また価値観を、私たちは無意識にせよ持っているのです。ある小学校の理科のテスト問題に「氷が溶け たら何になりますか？」という問題が出ました。正解は「水になる」ですが、ある女の子が「春になり ます」と答えを書いた。もちろん不正解なのですが、担任の先生は「すばらしい！」と評価したそうで す。これは相対的評価を超えた唯一の価値に対する絶対的評価です。たとえ間違っていても、その答え は「すばらしい」と評価できた、その教師は実に立派な先生であると私は思います。 主なる神は私たちに対して、絶対的な評価しかなさらないかたです。他と比較して序列を決めるよう な評価（相対評価）を神は決してなさいません。親にとってわが子は「かけがえのない」愛するわが子 です。それと同じように、主なる神にとっては私たち一人びとりがみな「かけがえのない」絶対的な愛 の対象です。ある神学者はこのことを「キリストにおける神の愛は、価値追求的な愛（エロース）では なく、価値創造的な愛（アガペー）である」と申しました。私たち人間の愛は相手に愛するに価する価 値があるかどうかを量るのです。逆に言うなら、相手に愛に値する価値がなければ愛することはできな いし、価値が目減りすれば愛も目減りするのです。私たちの愛は相対性という限界と破れを持つのです。 イエス・キリストにおける神の愛はそういうものではありません。神は御子イエス・キリストにおい て「この世」を愛して下さった（ヨハネ3:16）のです。その「この世」とは罪と死の現実の支配する私 たちの真相です。罪の極みである私たちそのものです。その私たちを神はあるがままに限りなく愛して 下さった。その神の愛において私たちは「かけがえのない」価値を持つ者とされるのです。私の友人に キリスト者の医者がおりますが、患者さんを視るときには、その患者さんを愛したもう神に対する責任 感を覚えると申します。つまり、独子キリストをさえ賜わったほどに神に愛されている私たちは、その 神の愛によってこそ本当に「かけがえのない」価値に輝くのではないでしょうか。そこでこそ私たちは 自分が“only one”の存在であることを心から喜ぶことができるのです。 主イエス・キリストが「かしら」として教会に与えられたという事実は、そのような新しい価値観を 持つ人生へと、私たちを向かわしめるものです。言い換えるなら、主は私たちが生来持っている願いや 要求を満足させることを私たちの「救い」だとはお考えにならない。そういう意味でキリスト教は“御 利益宗教”とは異なるのです。生まれつきの人間が誰でも喜べる、病気が治ったとか、志望校に合格し たとか、業績が認められたとか、財産が蓄えられたとか、そうした喜びとは異なって、またそうした喜 びを遥かに超えて、主イエス・キリストは、人間が生来持っている自己愛とは異質の“神の愛”を私た ちに与え、その“神の愛”によって新しく生きる者として下さるのです。 私たちの心と思いとは、常に「おのれを第一とする愛」（自己愛）に支配されていますから、キリスト が与えて下さる喜びを心から喜び祝うためには、私たちの心に神の力である聖霊の働きがなければなり ません。このことをカルヴァンは「キリスト教綱要」という本の中でこのように語っています。「われわ れは福音において、われわれに提供されている宝がどれほど優れたものであるかを十分評価することが 決してできない。…これほどの幸福を自分が受けたのだという事情を、どうしても納得することができ ない。…それゆえに、キリストによる救いを真実に喜ぶためには、神の力強い御力の働き（聖霊の働き） がどうしても必要である」。これはとても大切な言葉です。なぜ私たちにはキリストが与えておられる宝 の素晴らしさがわからないのか。それは「これほどの幸福を自分が受けたのだという事情を、どうして も納得することができない」からだというのです。私たちはそれと正反対の思いを抱きがちなのです。 自分に神の恵みがわからないのは、神が自分を顧みて下さらないからだと拗ねるのです。神の責任にし てしまうのです。そして「自分は駄目だ」と決めつけるのです。「キリストの御手から離れている」と思 いこむのです。神が私たちをあるがままに、主の御身体なる教会に招いていて下さったのに、主の恵み によって立ち上がろうとはせず、むしろ自分の思いこみの中に蹲ってしまう私たちなのです。 キリストは既に、ご自身の来臨と十字架によって、私たち全ての者に絶大な救いを注いでいて下さっ ています。カルヴァンが語るように、信じられないほどの「宝」を与えられているのです。滅びの子で しかありえなかった私たち、魂の放浪者でしかなかったこの世界に、十字架による唯一絶対の贖いを与 えて下さるのです。そして三位一体なる神の永遠の愛の交わりの内に、私たちを教会によって招き入れ て下さったのです。このことだけでもどんなに大いなる絶大な「宝」であり「信じられないほどの幸福」 でありましょうか。このことを理解するためにこそ、パウロは今朝の17節以下においてこう告げるの です。「どうか、わたしたちの主イエス・キリストの神、栄光の父が、知恵と啓示との霊をあなたがたに 賜わって神を認めさせ、あなたがたの心の目を明らかにして下さるように、そして、あなたがたが神に 召されていだいている望みがどんなものであるか、聖徒たちがつぐべき神の国がいかに栄光に富んだも のであるか、また、神の力強い活動によって働く力が、わたしたち信じる者にとっていかに絶大なもの であるかを、あなたがたが知るに至るように、と祈っている」。 ここに、パウロの日々の祈りがありました。エペソは早くから福音が伝えられた街ですが、それだけ に、早くから異教社会との確執をも余儀なくされました。魔術が盛んな街でしたし、街の中心にはアル テミスの大神殿がそびえていました。ローマ帝国による迫害の前兆もありました。教会とは何であるか が見えなくなってしまう、信徒の間の信仰の動揺があったのです。そうした数々の困難の中でパウロは、 教会的信仰の確立に全力を注ぎました。教会はサークルや同好会、株式会社のように、利害を同じくす る者たちの共同出資による組織ではありません。分裂解散や離脱が自由な団体などではありません。そ れはキリストがご自身の血をもって贖い取って下さった、全ての人たちに永遠の生命を与えるキリスト の御身体です。教会の唯一の「かしら」はキリストです。教会に連なることはキリストに結ばれること です。そこで私たちはあるがままに、キリストの復活の生命に結ばれた者とされるのです。もはや自分 の願いや欲望が主ではなく、神の御心に仕える僕たる人生を歩む者とされるのです。神の栄光を現わす 人生の喜びです。私たちの存在と生涯を通して、キリストの限りない愛が輝く幸いと祝福に、いま私た ちは生かされているのです。まさに今朝の23節に示されているように「すべてのものを、すべてのも ののうちに満たしているかたが、満ちみちているものに、ほかならない」主の身体なる教会のみが、こ の日本を、また世界を、救いに導く唯一の生命なのです。 教会は福音の伝道をもって、ただイエス・キリストのみが「主」であり、全てを満たしたもう救い主 であることを世界に証し続けます。キリストのみが「すべての名の上におかれた」勝利と生命の主であ り、教会はこの「かしら」なるキリストに仕え、キリストのみを証します。私たちはここに連なり、こ こに生き、ここに養われて、主にのみ栄光を帰したてまつる礼拝を献げることによって、日ごとに恵み の力に新たにされてゆきます。私たち一人びとりが「神の力」によって立ち上がり、新しい一週間の持 場へと遣わされてゆく。そこに私たちの尽きせぬ喜びがあり、また幸いがあることを覚えます。