説 教 申命記7章6〜8節 コロサイ書3章12〜17節「新しき生命」
２０１４・０３・１６（説教１４１１１５２８） 「コロサイ人への手紙」の舞台であるコロサイは現在のトルコ南西部、エーゲ海から200キ ロほど内陸に入った町です。当時はエペソからコロサイを通ってメソポタミア（現在のイラク） へと伸びる幹線道路が通じていたため、コロサイは街道沿いの都市として栄えていました。紀 元前3世紀のある文書にコロサイは「この地方一帯でも最も大きな町」と紹介されており、毛 織物や染物が特産品であったと記されています。このコロサイに最初に福音を宣べ伝えたのは “エパフラス”という人でした。伝道とは人々にキリストによる唯一の救いを宣べ伝え、そこ にキリストの御身体なる“まことの教会”を建てることです。エパフラスは立派にその使命を 果たしました。しかしエパフラス個人については、彼がコロサイ出身者であったこと以外に詳 しいことは何もわかっていません。それで良いのです。使徒はただキリストのみを証しし、自 分を語らない者だからです。 おそらくエパフラスは、大きな苦労のすえコロサイに主の教会を建て、その更なる成長のた めに自分は身を引き、使徒パウロを迎えたのでありましょう。コロサイ教会の信徒たちはほと んどがギリシヤ人であり、その点ユダヤ人信徒が中心であった他の教会とは違って、文化的宗 教的に様々な問題がありました。ギリシヤ的（多神教的）異教的風習が色濃く残っていたので す。ですから洗礼を受けてキリストを信じても、なお文化的な弱さを持っていたのがコロサイ の教会でした。「コロサイ人への手紙」はそのようなコロサイの信徒たちの信仰生活を励まし 確かなものにするために書かれたのです。これは「手紙」ですが、何よりもコロサイ教会の礼 拝において「説教」として読み上げられるために書かれたのです。つまりこの手紙はパウロに よるコロサイ教会への説教であり、具体的な信仰生活の指針なのです。 そこで、今朝お読みしました3章12節以下には、キリストと私たちとの関係、それを軸と して私たちは具体的にどのような生活をなすべきか（なすことを許されているか）が懇切丁寧 に語られています。私たちはここに真に慰めに満ちた幾つもの率直な勧めがなされていること に気づきます。それはまるで讃美歌の歌詞のようであり、祈りの言葉のようです。まず12節 以下です「だから、あなたがたは、神に選ばれた者、聖なる、愛されている者であるから、あ われみの心、慈愛、謙そん、柔和、寛容を身に着けなさい。互に忍びあい、もし互に責むべき ことがあれば、ゆるし合いなさい。主もまたあなたがたをゆるして下さったのだから、そのよ うに、あなたがたもゆるし合いなさい」。同様に14節と15節「これらいっさいのものの上に、 愛を加えなさい。愛は、すべてを完全に結ぶ帯である。キリストの平和が、あなたがたの心を 支配するようにしなさい。あなたがたが召されて一体となったのは、このためでもある。いつ も感謝していなさい」。そして16節には結論としてこうあります「キリストの言葉を、あなた がたのうちに豊かに宿らせなさい。そして、知恵をつくして互に教えまた訓戒し、詩とさんび と霊の歌とによって、感謝して心から神をほめたたえなさい」。 これらは全て命令法（命令形）で書かれています。それは2つの意味があるのです。第一に、 これは主イエス・キリストによる福音（また福音に基く新しい生活）であり、私たちへの道徳 的教訓などではないということです。私たちは「罪」という名の全人格的な奴隷状態からキリ ストの十字架によって贖い出して戴いた者たちです。自由な者とされた御国の民です。「神の 家族」とされた僕たちです。だからその喜びは「こうすべきだ」とか「こうしたらよい」とい う教訓の言葉ではなく「（あなたは）こうしなさい（こうできる）」という命令形になるのです。 言い換えるなら、私たちの本当の救いは、私たちの願いが実現することではなく、主なる神の 御言葉が成就することにあるのです。 第二に、今朝の御言葉が命令法である答えは御言葉そのものの中に示されています。それは 12節の最初に「だから、あなたがたは、神に選ばれた者、聖なる、愛されている者であるから」 とあり、また13節には「主もまたあなたがたをゆるして下さったのだから」と告げられてい ることです。つまりまず最初に、私たちを罪あるがままに限りなく愛し、ご自分を犠牲として 救って下さったキリストの「恵み」があるのです。これを「神の恵みの直説法」と申します。 理屈ぬきに、ただキリストの恵みによって、信ずる者すべてが、私たち一人びとりが「神に選 ばれた者、聖なる、愛されている者」とされ「主の赦し」を戴いている。これが「恵みの直説 法」（恵みの事実）です。これに裏付けられて「感謝の命令形」が出てくるのです。だからそ れは強制としての命令ではありません。救い主に対する感謝と喜びの応答としての命令法なの です。ただ恵みによって（キリストの贖いによって）神の民とされた私たちの感謝の応答とし ての新しい生活なのです。命令法はその応答の確かさを示すのです。 そこで私たちは、今日の御言葉の少し前、同じコロサイ書2章20節以下に告げられている ことにも心を向けたいのです。「もしあなたがたが、キリストと共に死んで世のもろもろの霊 力から離れたのなら、なぜ、なおこの世に生きているもののように、『さわるな、味わうな、 触れるな』などという規定に縛られているのか。これらは皆、使えば尽きてしまうようなもの、 人間の規定や教によっているものである。これらのことは、ひとりよがりの礼拝とわざとらし い謙そんと、からだの苦行とをともなうもので、知恵のあるしわざらしく見えるが、実は、ほ しいままな肉欲を防ぐのに、なんの役にも立つものではない」。特にこの最後の言葉は直訳す れば「（この世の規定に縛られた生活は）何の価値もなく、肉の欲望を満足させるだけである」 となります。私たちは時に自分の欲望に正直であること（自分を喜ばせることが目的の人生） がいちばん自由な生きかただと錯覚します。それが「知恵のあるわざ」に見えるのです。 あるキリスト教機関紙の論説によれば、現代のほとんどの教会が教勢の低下による伝道の閉 塞感を抱いているそうです。その要因として8つのことが挙げられています。�／�仰の弱体化、 ��教職の交代と無牧、��社会、環境の影響、�ざ飢颪梁亮舛量簑蝓↓ザ疑Δ亮舛量簑蝓↓�高齢 化、��霊性の低下、�┝匆颪箸陵稽ァ∃�離。そして更に「閉塞感」をもたらす「減少」のベス ト６が列挙されています。�／�来会者、�∪椎�、�Ｆ�曜学校、�ぜ�洗者、�ノ蘿匱圈↓Ωザ盂曄� しかし、こうした「閉塞感」はなにも現代に始まったことではないのです。初代教会の時代か ら、教会はこの世の流れに浮遊する団体ではなく、むしろこの世の流れに抗して新しい歴史と 希望を告知する群れでした。その意味では、この世においては真の教会はいつも「閉塞感」を 持つのです。福音の真理に堅く立ち、聖霊の導きを信じて伝道し、教会を形成してゆくとき、 目に見える教勢は上がらないことが多いのです。それを恐れてはなりません。むしろ「閉塞感」 を打破する真の力が教会の主なるイエス・キリストにのみあることを、私たちはいつも揺るが ぬ確信として持つべきです。そこでこそ「恵みの直説法」に生きる群れでありたいのです。教 会は“この世の知恵”ではなく、全ての人に対する神の福音（まことの救いのおとずれ）を宣 べ伝える群れでからです。 そういたしますと、改めて今朝の御言葉の冒頭に「だから、あなたがたは、神に選ばれた者、 聖なる、愛されている者であるから…」と告げられていました。これこそ私たちに与えられて いる“神の恵みの直説法”（事実）です。言い換えるなら、十字架の主イエス・キリストにお ける世界全体の確かな救いの約束です。まことの神は私たちにまず無理難題な道徳を突きつけ 「ここまで上がって来い、上がってきた者だけを救ってやろう」と言われるかたではありませ ん。そうではなく、まず私たちの罪の極みの中にご自身の御子イエス・キリストをお与えにな り、御子の十字架によって私たちの罪を贖って下さったかたなのです。どこまでも「神の恵み の直説法」が先行しているのです。キリストの十字架の出来事が、私たちの罪の支配に先立っ ているのです。だからパウロは申します。感謝と祈りを献げます。私たちはいますでに「神に 選ばれた者、聖なる、愛されている者」とされているではないか！。ここにコロサイ書の中心 使信があります。「神に選ばれている」とは、私たちの救いは私たちの力や知恵によるのでは なく、ただ神の無限の愛に基くのだということです。私たちは生まれる前から神によって「選 ばれた者」とされた群れなのです。だから「聖なる者」とされたということは、キリストが私 たちに代わって、私たちのために、罪の結果である滅びを担い取って下さった恵みにより、私 たちに新しい生命を与えて下さった（主の教会の枝として下さった）ということです。だから それは「主に愛されている者」と呼ばれます。あなたこそその人であると告げられているので す。 現代の教会にはたしかに多くの「閉塞感」があるでしょう。しかし考えてみましょう。教会 を取巻く閉塞状況がどんなに大きくても、私たち人間の「罪」以上の閉塞状況がどこにあるで しょうか。主イエス・キリストは、その私たちの「罪」という恐るべき閉塞状況のただ中に来 て下さった救い主なのです。私たちの存在の重みをその滅びもろとも担い取って十字架に死ん で下さったのです。これが真の神の「恵みの直説法」でありいまここにおけるご支配です。「罪」 に死す者のために、神の御子みずから身代わりとなられ、その滅びを負うて死んで下さった。 そして復活せられ、ご自身の復活の身体である教会に私たちを連ならせて下さったのです。死 者の復活の出来事が私たち一人びとりに起っているのです。そこにこそ、あらゆる「閉塞状況」 をも打ち破る希望と幸いがあるのです。十字架と復活の主がいま（永遠に）私たちと共にいて 下さるからです。しかも私たちの罪の贖い主として！。だからコロサイ書の音信は、今日の御 言葉をも含めて、復活の主イエス・キリストに連なる新しい生命の喜びなのです。 ルカ伝15章11節以下の「放蕩息子の譬え」を思い起こしましょう。これは本来「父の愛の 譬」と呼ばれるべき物語です。2人の息子は私たち自身を現しています。弟息子は父の愛に叛 く罪をおかし、兄息子は父と弟を審く罪をおかしました。この二人に生命を与えたのは父の愛 でした。父は（主なる神は）私たちの全ての罪を赦し、あなたはかけがえのない大切なわが子 であると宣言して下さいました。そして「（この子は、死んでいたのに生き返り、いなくなっ ていたのに見つかったのだ）と告げて下さいました。まさにこの父なる神の無償の愛を受けて、 はじめて私たちは立ち帰って、神と共に祝福の内を歩む者とされるのです。まことの神の子と された喜びに生きはじめるのです。 この喜びをこそコロサイ書は「（あなたは）神に選ばれた者、聖なる、愛されている者」と されている恵みとして語ります。私たちが今ここにおいて神の無償の愛に生かされていること です。神の恵みに生かされていることです。そこに私たちの新しい感謝の生活が、真の自由と ともに造られてゆきます。16節以下です「キリストの言葉を、あなたがたのうちに豊かに宿ら せなさい。そして、知恵をつくして互に教えまた訓戒し、詩とさんびと霊の歌とによって、感 謝して心から神をほめたたえなさい」。新しい感謝の生活、キリストと共にある歩み、キリス トに贖われた者の平安。私たちはいまその恵みに生かされ、豊かに支えられているのです。私 たちこそ「死んでいたのに生き返った」者とされているのです。十字架による贖いという「恵 みの直説法」が私たちの新しい生命です。そこに尽きぬ感謝と祝福の源があります。その神の 愛こそが、放蕩息子と同様に、私たちにも救いを、新しい生命を与えます。どうかこの受難節、 私たちは主が与えて下さった新しい生命の道を、主と共に歩んでゆきたいと思います。