説 教 マラキ書4章4〜6節 マルコ福音書9章2〜8節「 山上の出来事 」
２０１４・１・１９（説教１４０３１５２０） それは主イエス・キリストが、ご自分の十字架の死と復活を、最初に弟子たちに予告されてから6日 後のことでした。主イエスはペテロ、ヤコブ、ヨハネの3人だけをお連れになって「高い山」に登られ ました。それはガリラヤのタボル山であったと思われますが、あるいはレバノンのヘルモン山（標高2800 メートル）であった可能性もあります。わざわざ「高い山」と記されているのですから、ヘルモン山で あったのかもしれません。その「高い山」の頂上で、弟子たちの目の前で、主イエスは神の栄光の輝き に包まれたのでした。今朝のマルコ伝9章2節によれば「その衣は真白く輝き、どんな布さらしでも、 それほどに白くすることはできないぐらいになった」とあります。その純白の光輝く主イエスのお姿に、 弟子たちは驚き大きな畏れを感じました。太陽を直接見ることができないのと同じように、主イエスの お姿の燦然たる輝きに、弟子たちは圧倒され戦いたのです。 ここに「真白く輝き」とある、この燦然たる光芒こそ、まさに“神の権威”（救いの御力）の現れでし た。主イエス・キリストが永遠の昔から御父なる神と共に持っておられた「救いの権威」（完全な恵みの 力）が、いま弟子たちの肉眼に明らかなものとして現われたのです。弟子たちの目には主イエスの「衣」 が輝いたように見えましたが、実は主イエスご自身が、目くるめく“聖なる輝き”を発せられたのです。 そこで、これは普段の主イエスに、この「光」がなかったということではありません。主イエスは普段 から、この世を照らす「まことの光」を放っておられました。ただ信仰のまなざしのみが、その「まこ との光」を見ることができるのです。ですからこの「高い山」の上で起った出来事は、その主イエス「ま ことの光」が弟子たちの肉眼にも明らかなものになったことです。 この輝きに接して、驚き畏れる弟子たちの眼前に、さらに満ち溢れる恵みの光景が繰広げられます。 旧約聖書に登場する人物の中で、預言者を代表するエリヤ、そして律法を代表するモーセの2人が現れ、 主イエスと共に語り合っているのを、弟子たちはまのあたりにしたのです。それは弟子たちの窺い知れ ない尊い対話であり、神の国での完全な祝福と喜びを現わすものでした。ここで大切なことは、光輝い ておられたのは主イエスお一人であり、エリヤとモーセはキリストの輝きに覆われて、この対話の中に 招き入れられていたことです。 さて、弟子たちは、この突然の感動的な出来事に接して、深く心を揺さぶられ、興奮して、この時間 がいつまでも続けば良いのにと願ったことでした。ゲーテの言葉で言うなら「時間よ、止まれ」と叫び たかったのです。否、事実ペテロはそう叫んだのです。すなわち今朝の5節にあるように「先生、わた したちがここにいるのは、すばらしいことです。それで、わたしたちは小屋を三つ建てましょう。一つ はあなたのために、一つはモーセのために、一つはエリヤのために」と叫んだのです。言い換えるなら、 弟子たちは主イエスにこう言いたかった。「先生、私たちはいまこそ、先生がどんなに素晴しいかたであ るかがわかりました。あなたはあの偉大なモーセとエリやと直に会話ができるような、素晴しいかたな のですね。私たちはこの事実に感動したので、ここに小屋を三つ建てようと決心しました。あなたと、 モーセと、エリヤのためにです。そうすれば、この素晴しい時はいつまでも続き、私たちもこの場所に いつまでも留まり、そして世界中から人々が、この山を目ざしてやって来るでしょう」と。 これは、弟子たちだけの思いだったのでしょうか？。私たちもまた、このような思いを抱くことがあ るのではないでしょうか。ここは想像を超えた素晴しい感動がある。これこそ神が共にいて下さる場所 である。ここにこそ聖霊がある。できることなら、自分はもう煩わしい下界などに戻りたくない。嫌な 人付き合いや、悩みや悲しみの多い現実社会になど戻りたくない。自分を理解してくれない人々の中に 帰りたくない。まのあたりにした感動が大きかったぶん、弟子たちが「下界に戻りたくない」と願うそ の想いはいっそう強かったのではないでしょうか。だからこそペテロは「先生、わたしたちがここにい るのは、すばらしいことです」と叫んだのです。「小屋」というのは“天幕”のことです。かつてモーセ に導かれてエジプトの地を脱出したイスラエルの民は“会見の幕屋”において主なる神の現臨に接しま した。いまその“会見の幕屋”を、主イエスと、モーセと、エリヤの3人のために「三つ建てましょう」 とペテロは誓願を立てたのです。「自分たちの先生は、エリヤやモーセと並ぶような、すごい先生だった のだ」と、ペテロは感動し喜び、その感動と喜びをいつまでも留めておきたいと願っているのです。 そこで大切なことは、続く6節に「（ペテロが）そう言ったのは、みんなの者が非常に恐れていたの で、ペテロは何を言ってよいか、わからなかったからである」とあることです。まさにその通り、いわ ば“咄嗟の物言い”でペテロは「三つの小屋」の誓願を立てたのです。つまり、主イエスをキリスト（救 い主）と信じる信仰ではなく、自分の感動が中心になっているのです。神ではなく、自分が中心になっ ているのです。そのとき私たちは、最も大切なものを見失います。現在のこの私たちの生活が、この私 たちの教会生活（礼拝）が、永遠の御国に直結している祝福だということを見失うのです。 だからこそ、主なる神は「雲」をもって、ペテロや弟子たちのそのような自己中心的な思いを（たと えそれが誓願であっても）「覆って」見えなくなさいます。この「雲」は神の臨在のしるしです。エリヤ が荒野の中で神の現臨に接したとき、嵐の中にも、雷の中にも、大地震の中にも、神はおられなかった。 そのあとで「細き静かな御声」が聴こえたと記されています。その「細き静かな御声」を聴いてこそ、 エリヤは本当に預言者として立ち上がりました。今日の場面でも同じです。感動がないから、そこに聖 霊が（神の現臨が）ないと考えるのは私たちの傲慢です。むしろ神は「雲」をもってそれを覆い隠した もう。私たちに本当に大切なものを示して下さるのです。今朝の7節をご覧下さい「すると、雲がわき 起って彼らをおおった。そして、その雲の中から声があった。『これはわたしの愛する子である。これに 聞け』。彼らは急いで見まわしたが、もはやだれも見えず、ただイエスだけが、自分たちと一緒におられ た」。 主なる神は弟子たちに、否、私たち一人びとりに、今はっきりと告げて下さいます。「これはわたしの 愛する子である。これに聞け」と！。この御声こそ「雲」すなわち神の現臨において（真の礼拝におい て）私たちにいつも告げられている恵みの御声にほかなりません。私たちは、自分の感動を自分の力で 造る「小屋」などに留める必要はないのです。もっと比較にならぬほど大きな恵みの事実を、いま確か に神から戴いているからです。それこそこの御言葉の示す事柄なのです。 それは第一に「これはわたしの愛する子である」という恵みの事実です。イエス・キリストは永遠に 変わらぬ神の独子であられ、神と本質を同じくするかたです。キリストが私たちに与えられたことは、 神がご自身を私たちに与えて下さったことです。たとえ私たちの罪がどんなに大きな絶望であろうとも、 その罪の絶望の闇のただ中に主は来て下さった。それが十字架の出来事です。その恵みの事実の中で、 神は私たちの罪を贖い、私たち一人びとりに、はっきりと御声をかけて下さいます。「あなたもまた、わ たしの愛する子である」と！。イエスは主なり（キリストなり）と信じ告白するとき、私たちはいまこ こに、神の子としての新しい生活を始める者とされているのです。 第二に、私たちは「これに聞け」との御声を戴いています。弟子たちは急いで周囲を「見まわし」ま した。「これに聞け」と言われて、果たして誰に聞いたらよいのかわからなかったのす。だからあたりを 「見まわした」のです。しかしそこには、もはやエリヤもモーセの姿もありませんでした。ただ主イエ スだけが弟子たちと一緒におられたのです。こうして弟子たちは、神が「これに聞け」と言われた「こ れ」が主イエスのことであることを知りました。聴き従うべき確かな唯一の導き手として、神が定めて 下さったかたは主イエスの他にはないのです。 エリヤもモーセも人間にすぎません。しかし主イエスは永遠に変わらない栄光に包まれた神の独子な のです。エリヤやモーセはキリストではありません。主イエスのみがキリスト（神の子・救い主）なの です。 この主イエスが、私たちを救うために、十字架への道を歩んで下さいました。ここに真の神の愛 があります。それはご自身を十字架で犠牲にしてまで、私たちを罪から救い出さんとする壮絶な神の愛 です。この壮絶な神の愛に生かされ支えられ贖われてこそ、私たちははじめてこの教会が主の御身体で あること、ここに永遠の「救い」があることを知る者とされているのです。いまその「救い」に連なる 者とされているのです。 その教会生活は、山の上に栄光を留め、自分のために「小屋」を建てようとする空しい安心から私た ちを自由にします。なぜなら、私たちはいま主イエスにお目にかかっているからです。主が十字架の贖 い主として、私たち一人びとりに出会っていて下さり、共にいて下さるからです。ただ主イエスのみが、 変わることなく私たちと「一緒にいて」下さるのです。この恵みの事実に立ち上った私たちは、どんな に悩みや困難の多いこの世の旅路の中にも「ただイエスだけが、一緒におられる」恵みの確かさにおい て、平安と希望と勇気と感謝をもって、主と共に生きる僕とされています。そして神はどのような時に も、私たちを耐えがたき試練に遭わせたまいません。試練と同時に「そこからのがれる道」（�汽灰螢鵐� 10:13）をも、主の十字架の溢れる恵みを、いつも備えていて下さるのです。 今朝の御言葉に出てくるペテロ、ヤコブ、ヨハネは、いわば主イエスの弟子たちの中の“選抜チーム” でした。その者たちでさえ、主の十字架を前にして、そこには救いがない、聖霊がないと思いこみまし た。そこには虚無だけがあるように思われたのです。しかしその虚無は、まさに私たちが神の前に持っ ていた罪の虚無でした。それを主は十字架においてことごとく担い取って下さったのです。彼らは主イ エスを見捨てて逃げ去りました。自分の声だけに聞き従ってしまったからです。人生の大切な局面で、 自分自身を主として、主イエスを捨てて神から離れてしまう、 ここに人間の弱さ、罪深さがあります。 私たちの周りにも、自分自身の声も含めて、様々な声が渦巻いています。特にこの情報化社会の中で、 私たちはテレビやラジオ新聞といった従来のメディアのみならず、インターネットと携帯電話によって、 いつでも何処でも、たくさんの情報を得ることができるようになりました。情報が多いこと（声がたく さん聞こえること）が悪いのではありません。大切なことは、私たちがその中で、どの声に聴き従うの かということなのです。信仰の問題なのです。 そこにおいてこそ、大切な唯一のことは、今朝の御言葉に明確に告げられていたことです。すなわち 「彼らは急いで見まわしたが、もはやだれも見えず、ただ主イエスだけが、自分たちと一緒におられた」。 この歴史の中で、この日常生活のただ中で、私たちは主イエスのみが永遠に共にいて下さる、その確か な恵みの内を歩む者とされているのです。たとえ全てが奪い去られ、消えたのちにもなお、私たちと一 緒にいて下さるかたがおられる。否、このかた（主イエス）のみが、この世界と歴史の唯一の主であり、 救い主であられる。この世界を、歴史を救うために、十字架で死んで下さった主イエス、そして復活さ れて、教会のかしらとなられた主イエスこそ、いつまでも私たちと共にいて下さる救い主なのです。 「彼らは急いで見まわしたが、もはやだれも見えず、ただイエスだけが、自分たちと一緒におられた」。