説 教 エレミヤ書8章13節 ガラテヤ書4章19〜20節「キリストの形」
ガラテヤ書講解（31） ２０１３・０７・１４（説教１３２８１４９２） 「ああ、わたしの幼な子たちよ、あなたがたの内にキリストの形ができるまでは、わたしは、またも や、あなたがたのために産みの苦しみをする。できることなら、わたしは今あなたがたの所にいて、語 調を変えて話してみたい。わたしは、あなたがたのことで、途方にくれている」。これが今朝、私たち一 人びとりに与えられたガラテヤ書4章19節20節の御言葉です。ここには使徒パウロの牧師（伝道者） としての溢れる祈りと真実が迸っています。否、それは何よりも、教会のかしらにいます主イエス・キ リストの、教会に対する御心そのものでありました。 主イエス・キリストの、ガラテヤ教会に対する聖なる御心（その贖いの恵みの確かさと豊かさ）を思 うゆえにこそ、パウロはここに、その恵みの確かさから離れようとしているガラテヤの諸教会に対して、 かくも厳しい言葉で語らざるをえなかったのです。「わたしは、またもや、あなたがたのために産みの苦 しみをする」と言わざるをえなかったのです。「わたしは、あなたがたのことで、途方にくれている」と さえ語らずにはおれなかったのです。 ギリシヤ語で「教会」をあらわす言葉そのものが、すでに「主イエス・キリストに贖われ、ただ主の 恵みによって集められた群れ」を意味します。それならば、そのキリストの贖いの恵みから離れて、い かなる意味においても教会が「教会」として立つはずはありません。もし立っているように見えるなら、 それはキリストならぬ他の土台の上に立っているのです。しかしそれはもはや「キリストの教会」（主の 家）と呼ぶことはできません。人間の団体ではあっても、神の御霊の宿るところではないのです。 ガ ラテヤ教会が陥った「罪」はそのようなものでした。土台が崩れているのに見かけだけは丈夫に見える 建物のようなものでした。いつ崩れるかわからず、修復しようにも手の施しようがない。それにもかか わらずガラテヤの教会員には「自分たちが病んでいる」という自覚がないのです。自分たちが「教会で なくなっている」という自覚がない。だからこそパウロは「わたしは、あなたがたのことで、途方にく れている」と言わざるをえませんでした。そしてこう申します「できることなら、わたしは今あなたが たの所にいて、語調を変えて話してみたい」。 この「語調を変えて話してみたい」とは、敢えて厳しい言葉・強い口調をもってガラテヤの人々の「罪」 を指摘することです。それは教会をほんらい立つべきキリストという唯一の土台の上に建つものとする ためです。そのために自分は「どんなことでもする」とパウロは言うのです。それはパウロがこのガラ テヤ書を書いた動機そのものでもありました。パウロの説教は「その外見は弱々しく、話はつまらない」 （�競灰螢鵐�10:10）と思わせるようなものでした。淡々と静かに語られる言葉だったのです。いわゆ る“声を張り上げての雄弁”はパウロの説教のスタイルではなかった。だから「語調を変える」と言っ ても、それは“弁舌鋭く訴える”という意味ではなく、むしろ“悔い改めの喜びを人々にもたらす福音 そのものの力強さに徹する”という意味なのです。聴く人々をしてキリストへと立ち帰らせ、再び教会 を正しく建てしむる神の言葉、慰めと喜びと平和と自由をもたらす福音、ただそれだけをパウロは語る と改めて決意しているのです。福音宣教（の愚かさ）に徹するためです。 その意味では「途方にくれている」というのも「匙を投げている」という意味ではなく、難しい仕事 を前にして熟練した棟梁が落着いて事を構えている姿です。パウロは自分を捨て、ただ御言葉の権威（御 言葉の生きた救いの力）にガラテヤ教会を委ねようとしています。だからこそ、「語調を変えて」改めて 自分を虚しくし、福音宣教（の愚かさ）に徹し、自分を全く主の御手に委ね切っているのです。 同じことが、アテネ伝道の後に行われたコリント伝道にも言えました。使徒行伝17章を見ますと、 パウロはギリシヤの都アテネにおいて哲学者たちと論陣を張り、学問と雄弁を駆使して福音を弁明して います。しかし結果は惨憺たるものでした。アテネではわずか数名の人がキリストを信じたに過ぎなか った。アテネにはついに教会は建たなかったのです。雄弁の上に教会は建たなかった。そこでパウロは、 その後に行ったコリントにおいては全く伝道の方法を変えています。その様子が第一コリント2章1節 以下に詳しく記されています。「兄弟たちよ、わたしもまた、あなたがたの所に行ったとき、神のあかし を宣べ伝えるのに、すぐれた言葉や知恵を用いなかった。なぜなら、わたしはイエス・キリスト、しか も十字架につけられたキリスト以外のことは、あなたがたの間では何も知るまいと、決心したからであ る。わたしがあなたがたの所に行った時には、弱くかつ恐れ、ひどく不安であった。そして、わたしの 言葉もわたしの宣教も、巧みな知恵の言葉によらないで、霊と力との証明によったのである。それは、 あなたがたの信仰が人の知恵によらないで、神の力によるものとなるためであった」。 ガラテヤにおいても、この伝道の基本方針は少しも変わりませんでした。パウロがガラテヤ伝道にお いて最も苦心したのは「キリストの形ができる」そのような教会を建てることでした。言い換えるなら、 教会形成とは、私たち一人びとりを通してそこに「キリストの形」ができる（キリストの恵みの確かさ に立ち、キリストの栄光のみを現わす）群れが建てられることです。それが本当の伝道なのです。では その「キリストの形」とは具体的に何を指すのでしょうか。それは私たち一人びとりがキリストの御身 体なる教会に結ばれた者となり、真の礼拝者の群れへと成長してゆくことです。「なんだ」と思われるで しょうか？。私たちが真の礼拝者として生きることは簡単な「あたりまえ」のことでしょうか？…そう ではありません。礼拝のことをドイツ語で“ゴッテスディーンスト”(Gottesdienst)と言います。この言 葉には2つの意味があります。第一に「私たちが神に献げる奉仕」。第二に「神が私たちに献げて下さ った奉仕」です。大切なのはこの第二の意味です。「神が私たちに献げて下さった奉仕」というのは「神 の御業」ということです。神の御業とは何であろうか、それは御子イエス・キリストの十字架における、 全ての人々の永遠の救いの出来事ではありませんか。 それならば、私たちはこの礼拝において、御言葉と聖霊において現臨したもうキリストによって、い まここに測り知れぬ救いの出来事に与る者とされているのです。それが教会に連なる者の幸いであり喜 びです。神は全ての人々を御自身の教会へと招いておいでになる。キリスト・イエスの十字架における 罪の贖いと赦し、永遠の救いへと招いておられるのです。ですからカルヴァンは「私たちが神を知ると いうことは、神を礼拝せずにおれなくなるということである」と申しました。幾ら「わたしは神を知っ ている」と言っても、その人が教会から離れ、真の礼拝者であることを止めるなら、その知識は「虚し い」のです。真の神認識はただちに教会生活と真の神礼拝へと私たちを導くのです。 そのとき、私たちの間に、私たちの内に、何が起こるか。それこそ「キリストの形」ができる（成る） のです。「キリストの形が成る」のです。キリストが主であられる教会に連なることにより、私たちは罪 と死に永遠に勝利されたキリストの御身体に永遠に結ばれた者と「なる」からです。だからパウロはロ ーマ書8章39節において「どんな被造物も、わたしたちの主キリスト・イエスにおける神の愛から、 わたしたちを引き離すことはできない」と申しました。これこそ「キリストの形が成る」ということで す。私たちの心の状態・私たちの強さではありません。キリストの永遠の勝利に、私たちがそのままに 連なる者とされることです。キリストの「義」を着る者とされていることです。 そして、その喜びと幸いは、私たちが内輪で持っている喜びと幸いにとどまらないのです。その喜び と幸いは礼拝を通して、全ての人々に伝えられてゆくのです。そのことをはっきりと示すのが第一コリ ント書14章23節以下です。「もし全教会が一緒に集まって、全員が異言を語っているところに、初心 者か不信者かがはいってきたら、彼らはあなたがたを気が狂っていると言うだろう。しかし、全員が預 言をしているところに、不信者か初心者がはいってきたら、彼の良心はみんなの者に責められ、みんな の者にさばかれ、その心の秘密があばかれ、その結果、ひれ伏して神を拝み、『まことに、神があなたが たの内にいます』と告白するようになるであろう」。 ここに「全教会が一緒に集まって」とあるのはまさしく礼拝の姿です。活ける救い主なるキリストの もとに全ての者が一つにされている姿です。そしてパウロは言います。そこで全員が「異言」を語って いるなら、新しく教会に来た人たちは、あなたがたを見て「気が狂っている」と思うだろう。しかし全 員が「預言」（キリストの福音）を語っているならば（そこにキリストの形があるのだから）その礼拝に 「初心者か不信者」が入って来たらなにが起こるか？。驚くべき出来事が起こるのです。この「初心者」 とは初めて教会に来た人、「不信者」とは教会から離れてしまっていた人のことを言います。「キリスト の形」を現す真の礼拝、教会員全員が御言葉を正しく聴く真の礼拝に「はいってきた」なら、そこにな にが起こるか、それは「彼の良心はみんなの者に責められ、みんなの者にさばかれ、その心の秘密があ ばかれ」るに至る。 それはこういうことです。「もうあなたは、自分ひとりで罪の重荷を抱えている必要はないのだ」と、 教会がキリストの権威をもって宣言するということです。いままで罪の重荷を、意識的にも無意識的に も必死で抱えてきて、それに押し潰されていたあなたであった。そのあなたはもう二度と押し潰される ことはないと宣言することです。なぜか。それはあなたの存在のいっさいを、その測り知れぬ罪の重み もろとも十字架において担い取って下さったかたがあなたと共におられるという事実、キリストの十字 架による救いの確かさを私たちの教会が宣べ伝えるからです。それが「彼の良心はみんなの者に責めら れ、みんなの者にさばかれ、その心の秘密があばかれ」るということです。それこそ「キリストの形」 とされた教会が全ての人々に宣べ伝えてやまぬ祝福であり本当の救いなのです。 そのとき、なにがその人に起こるか。その人も共に真の神を礼拝する（福音の喜びに共に生かされる） 者となるのです。すなわち「その結果、ひれ伏して神を拝み、『まことに（真実に）神があなたがたの内 にいます』と告白するようになる」のです。その人もまた私たちと同じように「キリストの形」である 教会において本当の神を知る者となる。礼拝に生きる者とされる。私たちのため、そして全世界のため に、ご自身の全てを献げ尽くして下さったキリストの、測り知れぬ贖いの恵みと愛と祝福の内を、心を 高く上げて、勇気と希望と慰めをもって歩む者とされてゆくのです。 まさにそのような「キリストの形」を現す群れとして、私たちの教会はいまここに建てられています。 それゆえにこそ今朝のガラテヤ教会に対する厳しい言葉を、私たち自身への福音として正しく聴く続け る私たちでありたい。私たちのこの教会もまたこの葉山の地にあって、変わることも揺るぐこともなく、 ただ「キリストの形」を現わしてゆく、キリストの満ち溢れる救いの喜びと幸いを証してゆく、そのよ うな主の家とされていることを、感謝と喜びをもって憶えつつ、ともに前進して参りたいと思います。