説 教 エレミヤ書1章4〜5節 ガラテヤ書4章8〜11節「主は知りたもう」
ガラテヤ書講解（28） ２０１３・０６・１６（説教１３２４１４８８） 「神を知らなかった当時、あなたがたは、本来神ならぬ神々の奴隷になっていた。しかし、 今では神を知っているのに、否、むしろ神に知られているのに、どうして、あの無力で貧弱 な、もろもろの霊力に逆もどりして、またもや、新たにその奴隷になろうとするのか」。今 朝、私たちに与えられたのはガラテヤ書4章8節以下の御言葉です。ここでパウロは「神を 知らなかった当時、あなたがたは、本来神ならぬ神々の奴隷になっていた」と申します。こ れは過去のことなのでしょうか？。私たちがまだキリストを信じておらず、主の教会に連な っていなかった時の姿でしょうか？。もしそうなら、いま私たちはキリストを信じる者とし て教会に連なって歩んでいるから、自分はこの御言葉とは何の関係もない、つまり自分はこ の御言葉を聴く必要がないと感じるのでしょうか。 そうではないはずです。何よりもここにパウロは「しかし」と言っています。これは現在 の私たちのことです。「しかし、今では神を知っているのに、否、むしろ神に知られている のに、どうして、あの無力で貧弱な、もろもろの霊力に逆もどりして、またもや、新たにそ の奴隷になろうとするのか」。いま、あなたがたは（私たちは）「（まことの）神を知ってい る」にもかかわらず、どうして「あの無力で貧弱な、もろもろの霊力に逆もどり」しようと しているのか、それがいまここで私たちに問われている事柄です。 それこそここに、私たちが改めて驚くべき「罪」の姿が示されているのではないか。だか らパウロはここに大胆に福音を語らずにおれません。キリストの十字架の贖いによる完全な 永遠の救いに与ったにもかかわらず、その救いの喜びとは比較できないほど「無力で貧弱な、 もろもろの霊力に逆もどりして、またもやその奴隷になろうと」している私たちの姿がある。 それが“驚き”でなくていったい何が“驚き”であろうかと問うのです。ここでも私たちは 3章1節を思い起こします。「ああ、物わかりの悪いガラテヤ人よ、十字架につけられたイエ ス・キリストが、あなたがたの目の前に描き出されたのに、いったい、だれがあなたがたを 惑わしたのか」。 そこでこそ明らかに示されるのは、神に叛いた（神との関係を失ったまま生きる）罪をお かしたアダムとエバが、神の御顔を避けて物陰に隠れたとき「あなたはどこにいるのか」と 限りない慈しみをもって名を呼んで下さった主なる神の御姿です。「在るべきところに在ら ず、在るべからざるところに在る」私たちの姿です。「在るべからざるところに在る」罪を おかした私たちに「在りうべからざることが起こる」ようになりました。主なる神ではなく 「罪」と「死」が私たちの「主」になるという驚くべき本末転倒が起こったのです。まさに 今朝のガラテヤ書4章8節以下が語るのはそうした私たちの「罪」の姿とそこからの「救い」 なのです。 さて、私たちには自分が「もろもろの霊力に逆もどりして」いるという意識はほとんど無 いのではないでしょうか？。自分は主日のたびに礼拝に出席し、真の神を礼拝している。多 かれ少なかれ（私もそうですが）私たち日本のキリスト者は洗礼を受けた時にはそれなりの 戦いを経験してきたはずです。いわゆる八百万の日本の神々や宗教的慣習に対して、ある意 味絶縁状を叩きつけてキリスト教に入信したという矜持が私たちにある。だから「もろもろ の霊力に逆もどりして」などと聴くと「私はそうではありません」と言いたくなるのです。 むしろ自分はキリスト者であるゆえの戦いを経験しているのだと、自分の努力を誇示したい 気持ちにさえなるのです。 ある場合には、そうした誇りが律法主義に向かうことがあります。以前ある若い女性から （ホーリネス教会に通う人でしたが）相談を受けたことがあります。それは、この女性の家 で毎年お彼岸になると家族でお寺に墓参りをする。それは「偶像崇拝になるのではないです か？」という相談でした。私はむしろ「どうしてそう思うのですか？」と訊ねました。する とこの女性は「仏教寺院のお墓にお参りをするということは、仏像を拝むのと同じではない ですか？」と言うのです。そこで私はその女性に、そんなことは少しもない、あなたも家族 の人たちと一緒にお墓参りをして良いのです。それは偶像崇拝などではありませんと答えま した。そしてこう加えました。あなただけができることがある。それは墓前で手を合わせる とき、キリスト者であるあなたは「真の神の祝福と平安」を祈ることができる。それができ ることこそキリスト者の本当の自由と幸いではないかと申しました。聖書が禁じる「偶像崇 拝」とは、お寺に墓参りをすることや、仏式の葬儀で焼香をすることや、そうした外見上の ことではない。もっとはるかに本質的な問題なのです。そのことを今朝の御言葉ははっきり と私たちに教えているのです。 今朝の8節以下でパウロが語っていることは「日や月や季節や年」を気にする人たちをた だ「偶像崇拝だ」と責めたてているのではないのです。そういう迷信を全く気にしない人だ けが本物のクリスチャンだと言っているのではないのです。そうではなく、ここでもっとも 大切なこと、つまりパウロをして、驚き途方に暮れつつ11節に「わたしは、あなたがたの ために努力してきたことが、あるいは、むだになったのではないかと、あなたがたのことが 心配でならない」と言わしめている事柄は、ガラテヤの人たちが（つまり私たちが）「どう して逆もどりしているのか」ということなのです。だから今朝の言葉の中心は9節です。「し かし、今では神を知っているのに、否、むしろ神に知られているのに…」という事実が大切 なのです。真の神に「知られている」という無情の自由と祝福の上にある私たちの生活が、 どうして「あの無力で貧弱な、もろもろの霊力に逆もどりして、またもや、新たにその奴隷 になろうとするのか」ということです。 この9節の言葉はヨハネの言葉で言い換えるなら「わたしたちが神を愛したのではなく、 神が私たちを愛して下さった」（�汽茱魯�4:10）ということです。または私たちはヨハネ伝 15章16節の主イエスの御言葉「あなたがたがわたしを選んだのではない。わたしがあなた がたを選んだのである。そして、あなたがたを立てた。それは、あなたがたが行って実をむ すび、その実がいつまでも残るためであり、また、あなたがたがわたしの名によって父に求 めるものはなんでも、父が与えて下さるためである」を思い起こすことができるでしょう。 パウロが宣べ伝えた真の神は、かつてガラテヤの人々、あるいはユダヤ人やギリシヤ人や 日本人や、私たちを支配していた「もろもろの霊力」（得体の知れない運命の支配）などで はなく、その最愛の独子キリストを世にお与えになったほど、私たちを限りなく愛して下さ った真の神です。私たちはその神の永遠に確かな「救い」を戴いているのです。キリストの 十字架による贖いを通して、信ずる全ての者が永遠の生命（真の神との永遠の交わり）に生 きる者とされるのです。キリストは私たちを「律法ののろい」から贖い出し、真の自由を与 えるために、みずから「のろいの十字架」を担って下さったのです。この恵みの事実（私た ちのために主がなして下さった全ての御業）に全ての人の祝福と救いがあるのです。 それならば、どうして私たちが、そのキリストの十字架による救いが無かったかのように 生きることができるでしょうか？。「今では神を知っているのに、否、むしろ神に知られて いるのに」とはそういう意味です。主は私たちの罪の全てを十字架上において贖って下さっ た。神の民・神の子でありえなかった私たちが、神の民・神の子とならせて戴いた。神から 遠く離れていた私たちのもとに、キリストみずから「陰府に下って」までも来て下さった。 私たちの罪のどん底において、主はみずからの全てを献げ尽くして下さった。そのキリスト の溢れる恵みを知っていながら、どうして私たちが「もろもろの霊力」などに「逆もどり」 することができるでしょうか。 今朝の11節でパウロはこう祈っています。「わたしは、あなたがたのために努力してきた ことが、あるいは、むだになったのではないかと、あなたがたのことが心配でならない」。 その「心配」は私たちも経験しています。ある年の東海連合長老会の「長老執事修養会」で、 私が指導を受け持った分団において、一人の長老からこういう質問が出ました。信徒の人た ちの中には、年をとって信仰が深まる人もいるけれど、その逆に年をとって信仰が弱まって しまう人もいる。特にその人以外の家族が未信者である場合、幾ら訪問しても、電話をかけ ても、もう信仰の言葉（福音の喜び）がその人に届かない、いわゆる「音信不通教会員」に なってしまう人がいる。そういう人に対してどのような牧会をしたらよいでしょうか？とい う質問でした。 私はその質問に対して、こう答えました。いささか大胆な答えであったかもしれません。 たとえその人の信仰が、年と共に弱まっていると感じても、私たちは失望せずに主に信頼し、 祈ろうではないか。大切なことは、その人がいかに強く教会に連なっているかという「その 人の確かさ」ではない。むしろ主がいかに強く確かに、その人を愛し祝福し捉えていて下さ っているかという「主の御業の確かさ」を信じることだ。それを覚えつつ、否、その主の恵 みを知るゆえにこそ、牧師も長老会も（信徒一人びとりも）放浪する魂を覚えて、いまなす べきことをなし、祈りつつ魂の牧会をすることができるのではないか。 まさに、大切なことは「今では神を知っているのに、否、むしろ神に知られているのに」 という事実です。「主に知られている」祝福の事実「主はわれを知りたもう」恵みの事実、 その上にこそ私たち全ての者の、キリストにある生活が揺るぎなく成り立つのです。この事 実を覚え、この事実を感謝して、この事実を祝福として、全ての人々に福音を宣べ伝え、私 たちは礼拝者として教会に連なり、主に讃美と感謝と栄光を献げたてまつるのです。その私 たちを、もはや「もろもろの霊力」は決して支配することはできないのです。「キリストが 全てにいまし、全てのものの上にいましたもう」からです。