説 教 イザヤ書32章15節 ガラテヤ書1章11〜12節「キリストを啓示する聖霊」
ガラテヤ書講（9） ２０１３・０１・０６（説教１３０１１４６５） 私たちの教会の起源は本質的には主イエス・キリストによる神ご自身の設立に遡るのです が、歴史における日本最初のプロテスタント教会は1872年（明治5年）設立の横浜基督公 会です。場所は現在の横浜開港記念公園に隣接した日本基督教会・横浜海岸教会がそれです。 その海岸教会の中庭に小さな記念碑があり、そこには「元始聖句」とあって今朝拝読したイ ザヤ書32章15節の御言葉が漢文で刻まれ、そして台座の部分に「日本基督公会発祥地・1872 年3月10日」と記されています。この「元始」という字は漢文では創世記1章1節「始め に神、天と地とを創造したまへり」の「はじめ」の訳として用いられている言葉です。つま りわが国最初の教会はこのイザヤ書32章15節の御言葉によって神ご自身がお始めになった （クリエイト・創造された）群れである。これは忘れてならない大切な事実です。私たちの 教会は歴史の最初から、御言葉と聖霊によって建てられた群れなのです。 1871年（明治4年）の春のことでした。幕府の国禁を犯して（つまり生命がけで）アメ リカ改革派教会の宣教師ジェームズ・ハミルトン・バラのもとで英語を学んでいた十数名の 青年たちが、自分たちの意思で初週祈祷会を始めたのが1872年（明治5年）元旦のことで した。この祈祷会を提案したのは篠崎桂之助という当時17歳の静岡出身の青年でした。そ の初週祈祷会の最初の日（明治5年の元旦の朝）にバラ宣教師が説教したのがイザヤ書32 章15節でした。この初週祈祷会は最初一ヶ月間の予定でしたが1月が過ぎても終わらず2 月3月と続き、ついに3月10日に至って篠崎桂之助、押川方義、植村正久、山本秀煌、本 多庸一ら9名の青年たちがバラ宣教師から洗礼を受けるに至ります。 そして何よりも大切なことは、洗礼を受けた9名の青年たちは、先に洗礼を受けていた2 名と共に直ちにバラ宣教師に日本最初のキリスト教会の設立を願い、バラ宣教師みずから仮 牧師となり、続いて11名の教会員の中から4名の長老が選出され、その教会は「横浜日本 基督公会」と名づけられたのです。バラが敢えて「仮牧師」と称したのは、バラには「日本 の教会は日本人牧師が牧会すべし」という信念があったからでした。それが私たち葉山教会 の直接の起源です。その意味で1872年3月10日という日は私たちにとって忘れられない日 です。この「日本基督公会」はやがて芝露月町教会、東京品川教会、下総法典教会などの長 老教会と合同して1877年に「日本基督一致教会」となります。信仰告白はウェストミンス ター信仰告白、ハイデルベルク信仰問答、ドルト信仰告白の3つでした。そして1890年（明 治23年）には私たちの教会が今も告白する「日本基督教会信仰の告白」を制定し「日本基 督教会」へと発展していったのです。私たちが所属する東海連合長老会は東部連合長老会、 西部連合長老会とともに、この「日本基督教会信仰の告白」を受け継いで設立された中会（プ レスビテリー）です。 そこで、改めてイザヤ書32章15節を読みましょう。「しかし、ついには霊が上から、わ れわれの上にそそがれて、荒野は良き畑となり、良き畑は林のごとく見られるようになる」。 この「霊」とは主なる神の「霊」であり、聖霊のことです。主イエス・キリストを証しする “神の霊”です。カルヴァンは「聖霊は私たちを永遠にキリストへと結ぶ帯である」と語り ました。何よりもこれは、過去のことではなく現在の、そして将来の、全世界への救いの約 束です。私たちは聖霊によってキリストを主（救い主）と告白し、永遠にキリストに結ばれ た者とされるのです。「聖霊によらなければ、だれも『イエスは主である』と告白すること はできない」(�汽灰螢鵐�12:3 )。そこにキリストの教会が建てられます。教会は聖霊による 神の宮でありキリストの身体です。そこに私たちはただ恵みによって招かれ、キリストに結 ばれ、永遠の生命を与えられ、御言葉にあずかる者とされているのです。 この豊かな恵みを感謝しつつ、使徒パウロは今朝のガラテヤ書1章11節と12節において、 愛するガラテヤ教会の人々にこのように書き送ります。「兄弟たちよ。あなたがたに、はっ きり言っておく。わたしが宣べ伝えた福音は、人間によるものではない。わたしは、それを 人間から受けたのでも教えられたのでもなく、ただ、キリスト・イエスの啓示によったので ある」。この「はっきり言っておく」とは「われ神の真実において汝らに告げる」という意 味です。神の真実において告げることは「福音」そのものです。福音はいつでも「はっきり 語られる」のです。 パウロはすでにこのガラテヤ書の冒頭部分で、今朝の御言葉と似たメッセージを告げてい ます。それは1章1節「人々からでもなく、人によってでもなく、イエス・キリストと彼を 死人の中からよみがえらせた父なる神とによって立てられた使徒パウロ」とあることです。 今日のところではそれに「キリスト・イエスの啓示」という言葉が加えられています。私た ちはまことの神を、私たちのために主イエス・キリストがなして下さった救いの御業によっ て正しく知る（信じる）者とされている。それが「キリスト・イエスの啓示」の内容です。 つまりこの「啓示」とは「キリストによる救いの御業」という意味であり、これもまた「福 音」そのものなのです。まさしく神はこの「福音」をキリストによって私たちに明らかにし て下さる。はっきりと「啓示」して下さる。だから私たちはいま御言葉により、教会を通し て、聖霊によって、キリストを正しく知り告白する者とされているのです。言い換えるなら、 私たちは「キリストの啓示」によってキリストご自身に出会うのです。だからパウロは今朝 の御言葉で「わたしは、それを人間から受けたのでも教えられたのでもない」と明確に語り ます。「百聞は一見に如かず」と申しますが、聖霊によって現臨したもうキリストによって 神を知ることほど確かなキリスト認識はないのです。パウロは、それこそいかなる人間の知 恵やわざにも遥かにまさる認識だと言うのです。私たちは「福音」をキリストご自身から受 けているのです。 だからこそパウロは、それを「はっきりと」「神の真実において」語る以外の語りかたを しませんでした。横浜基督公開会を設立した11名の青年たちも、バラ宣教師を祭り上げた のではなく、ただキリストの教会に忠実に連なることを願ったのです。だからバラ宣教師も 自分は「仮牧師」に過ぎないと言ったのです。私たちは人間の作りごとや知恵によらず、聖 霊によって永遠に私たちと共におられる主キリストによって建てられた群れなのです。それ が私たちの葉山教会であり、私たちはこの教会に全ての人々が招かれていることを知るゆえ に、礼拝を重んじ、折を得るも得ざるも伝道に励むのです。今日は2013年最初の主日礼拝 ですが、私たちはこの礼拝において過去2000年前の教会の誕生を覚えるのではない。私た ちは今ここにおける「キリストの啓示」キリストによる確かな救いの御業にあずかる者とさ れている。礼拝者とされている。御言葉によって導かれ、新たにされ、養われる民とされて いるのです。かつて1872年3月10日に、私たちの信仰の先達たちが受けた救いと同じ喜び にあずかる者とされているのです。 イザヤ書32章15節は語ります「しかし、ついには霊が上から、われわれの上にそそがれ て、荒野は良き畑となり、良き畑は林のごとく見られるようになる」。この「ついに」とは 「必ず成就する」という意味であり「荒野」とは生命の絶えた砂漠のことです。この「荒野」 が「良き畑となる」（キリストの生命に満ち溢れた所となる）という約束です。この「荒野」 は私たち人間の「罪」の現実をさしています。ある環境工学の専門家によれば、いちど砂漠 化した土地を緑地に甦らせることほど困難なことはないそうです。それはそのまま私たち人 間の人生の現実にあてはまります。いったん罪に支配された魂が生命に甦る困難は砂漠の緑 地化の比ではないのです。まさにそこでイザヤは「しかし」という主なる神の御声を聴きま した。「しかし、ついには霊が上から注がれて、荒野は良き畑となり…」。まさに私たちのた だ中に、この約束が実現しているのです。この世界の上にも、この約束は成就するのです。 「良き畑は（さらに）林のごとくにならん」と。 パウロは、自分こそ「荒野」以外の何者でもなかった。「人にへつらい」教会を迫害して いた「滅びの子」でした。そのパウロを主は「キリストの啓示」によって永遠の生命へと甦 らせて下さったのです。「罪人のかしら」を主は救って下さったのです。まさに「荒野」が 「良き畑」となり「林のごとく」になったのです。私たちは神がご自身の御子をさえ賜った ほどに愛したもう一人びとりなのです。過日、私たちは愛する姉妹・伊藤ふ志さんの葬儀を 行ないました。彼女の人生もまた神に愛されたキリスト者の忠実な歩みでした。だからその 全生涯を通して、私たちはキリストの救いと祝福を知り、そこに現れた「キリストの啓示」 を知り、神に感謝する者とされるのではないでしょうか。その「キリストの啓示」はいま私 たちにも豊かに与えられているのです。私たちもまた同じように信仰の歩みに召されている のです。 生命のありえなかった「荒野」のごとき私たちの現実さえも、そして世界の現実さえも、 神は「キリストの啓示」によって「良き畑」「林のごとく」になしたまい、救いの完成へと 導いて下さいます。「林」とは数々の樹の実をみのらせ、たくさんの生命を育む生命の森で す。「荒野」がそのような沃地に変えられる、この驚くべき奇跡こそが「キリストの啓示」 なのです。この世界に、このピスガ台に、キリストの贖いに生きる教会が建てられているこ と。そしてキリストのみを宣べ伝え、証する群れが建てられていること。そこに私たちが連 なり、全ての人が祝福に招かれていること、その喜びと幸いを知る私たちは、使徒パウロと 共に「神の真実において」語ります。いま私たちがキリストの身体に永遠に結ばれ、キリス トの復活の生命に覆われているのです。キリストの極みなき愛のうちに、いま私たちの全存 在・全生涯が主の栄光を現すものとされているのです。キリストの御手に堅く守られ支えら れているのです。 いま2013年年頭の礼拝にあたり、限りなく目出度き福音を与えられました。どうか私た ちはこの新しき主の年をも、世々の聖徒らと共に、ますます喜んで主に仕え、教会生活を重 んじ、主の僕たる歩みをなす者でありたいと思います。