説 教 エゼキエル書3章1〜3節 ヘブル書4章12〜13節「生命の言葉」
２０１２・０２・０５（説教１２０６１４１６） 新共同訳聖書を用いる教会が多くなった現在、残念ながら私たち葉山教会の日曜学校で子 供用の聖書が無くなってしまいました。生徒たちも大人が使うのと同じ聖書を日曜学校に持 って来ます。しかし少し前までは子供用の聖書があり、その見返しの部分に「日曜学校生徒 の五つのお約束」と書いてありました。「一、せいしょをよむ。二、おいのりをする。三、日 曜学校をやすまない。四、けんきんをする。五、おともだちをさそう」。この5つの項目はそ のまま、私たちの信仰生活（教会生活）にも当てはまるでしょう。�� 聖書に親しむ。�� 日々 祈りを献げる。�� 礼拝を厳守する。�� 献金をもって教会を支える。�� 伝道をする。要する に「聖書」「祈り」「礼拝」「献金」「伝道」の5項目です。まことに基本的なことで日曜学校 の生徒たちでさえ守り務めています。当然のごときキリスト者の生活です。しかし私たちは これら大切な5項目を本当に「当然のこと」としているでしょうか。 信仰生活の長い人でも、えてしてこの大切な基本を忘れていることがあります。たとえば 「献金」ひとつを取ってみても、それが「感謝の献げもの」ではなく生活費の中から「余っ たから献げる」ものになっていないでしょうか。かつて私たちの先達たちは毎月の所得の中 から、まず献金として献げる分を感謝と祈りをもって聖別し文字どおり「十分の一献金」を 献げました。そうした心を「古臭い」と笑うことは簡単です。問題は現在の私たちの信仰生 活なのです。そこで、今朝のエゼキエル書2章8節以下の御言葉を通して、特に第1の「聖 書に親しむこと」、すなわち「教会は御言葉によって建ちもし倒れもする」ということをご一 緒に学んで参りたいと思います。 「最近のキリスト者は聖書を読まなくなっている」と言います。つい最近のことですがイン ターネットでアメリカのある神学者が書いた「教会における聖書の奇妙な沈黙」という文章 を読みました。それによれば現代のアメリカ人の90パーセント以上が、自分は十分に宗教的 （キリスト教的）な人間だと自覚している。しかし95パーセントの人たちは聖書を読むこと に無関心だと書いてありました。そして「多少聖書に関心を持っているアメリカ人でさえ、 そのほとんどが聖書を“ベッドタイム・ストーリー”として読んでいる」とありました。こ れは「寝物語」(読んでいるうちに眠くなる本)という意味です。多少の諧謔味を含んだ表現で すが笑えない事実があります。それでは私たち日本のキリスト者は聖書に親しむ生活をして いるのでしょうか。 ご存じのように、私たちキリスト教会の礼拝の歴史は2000年以上におよぶ長いものです。 しかしその長い歴史の中で最近の数百年間だけを見ても、礼拝における聖書と説教の位置づ けはかなり変化してきました。私がときどき読む本に今から約200年前に書かれたピューリ タン時代の“ユダ書連続講解説教”があります。ユダ書はわずか1章の短いものですが、そ の講解説教が約500ページもあるのです。たぶん日本語に直したら800ページにはなるでし ょう。どの説教も長さは90分ぐらいあるのです。もし日本語なら2時間ぐらいの説教になる はずです。単純素朴に思いました。もし仮に私が毎週2時間の説教をしたら皆さんはどうい う反応をされるだろうか…。200年前のピューリタンの教会の礼拝説教は約90分だったので す。そして家庭でも毎日2〜3時間は聖書を読んでいたのです。逆に言うならちょうど現在、 私たちがテレビを観ているのと同じぐらいの時間を、200年前のキリスト者たちは聖書を読む ことに心を用いていたわけです。 初代教会の礼拝はさらに真剣なものでした。2000年前のローマ帝国ではまだ定休日という 考えもなく、いわば一年365日全てが出勤日でした。キリスト者たちは日曜日も昼間に礼拝 を献げることができず、仕事が終わって夜になってから地下墓地(カタコンベ)に造られた礼拝 堂に集まり、そこで喜びに溢れて神を讃美したのです。使徒行伝の20章7節以下に、使徒パ ウロを迎えてトロアスで献げられた礼拝の様子が描かれています。それを見ると「パウロの 話が長々と続くので」ついに居眠りをしてしまった「ユテコ」という青年が3階の窓から下 に落ちて意識を失い、パウロによって蘇生させられる場面が記されています。これを見ても わかるように当時の初代教会の説教は現在の私たちの礼拝の説教とは比較にならないほど長 かったのです。 さて、こうした礼拝における説教や聖書朗読の位置づけの問題のほかに、たぶんこのほう がより深刻な問題ですが、現代の教会においては聖書が「教会の拠って立つべき唯一の神の 言葉」として読まれなくなってきているという問題があります。特にそれは1970年代の終わ りごろから、アメリカのいわゆる「自由主義神学」の流れがわが国に混入してきたことと関 係があります。この立場の人々によれば聖書というものは古文書のひとつにすぎない。最初 から「神の言葉」の権威などはないのだというのです。だからどんな解釈も自由ですし、極 端に言うなら聖書でなくても構わないわけです。そういう誤ったリベラリズムに対して、私 たちは「我らが神と崇むる主イエス・キリスト」と告白し、聖書において語りたもう聖霊こ そ「信仰と生活の誤りなき最上の審判者」であることを告白している教会です。 問題を歴史的に見るならば、私たち改革派教会の歴史そのものが聖書を「神の言葉」とし て重んずる歩みを続けてきました。今でも変わりはないのです。宗教改革者マルティン・ル ターがそうでした。よく宗教改革のことを「当時のローマ・カトリック教会の腐敗堕落に不 満を持った人々が新しい教会を建てた運動」と定義する人がいますがそれは皮相的な見方で す。宗教改革の本質は「新しい教会」を造ろうとしたことではなく、初代教会（聖なる公同 の使徒的教会）という生命の幹から離れてしまった教会を再びもとの幹に結び直そうとした 「教会回復運動」でした。ですから宗教改革のことを英語では“リフォーメーション”と言 います。リフォームとは元のものがあってそれを新しくすることです。だから宗教改革にお いて最も大切なことは、教会が聖書を“まことの神の唯一の言葉”として正しく聴き、宣べ 伝える群れになることでした。そのために、様々な魔術的要素が絡んだミサをリフォーム（改 革）して聖書のみを中心とした礼拝を回復したのです。宗教改革は「礼拝改革」でした。そ の礼拝改革の本質は聖書を「神の言葉」として正しく聴き宣べ伝えるキリストの群れを形成 することでした。そのために不必要なものを廃止し必要不可欠なものを回復したのです。そ れが1507年から1514年にかけての出来事です。そしてルターは1522年から1535年までの 13年間を費やして、それまでラテン語でしか読めなかった聖書をギリシヤ語とヘブライ語の 原文から、誰でも読める国語(ドイツ語)に翻訳しました。これが世界で最初に一般の言語に翻 訳された「ルター訳聖書」です。 主イエス・キリストは宣教の始めにあたり、まず荒野において40日40夜の断食をなさり、 そののち悪魔の試みに遭われました。主がお受けになった最初の試みは「汝もし神の子なら、 これらの石をパンにして食してみよ」というものでした。これは単に石をパンに変える手品 行なって人心を捕らえよという誘惑ではなく、人間にとって最も大切なものは結局は物質で あることを認めよという誘惑です。この誘惑に対して主イエスは聖書の言葉・申命記8章3 節をもって毅然とお答えになりました。「人はパンのみにて生くるにあらず、神の御口より出 ずる一つひとつの言葉によりて生くるなり」とみごと悪魔の誘惑を退けられたのです。この 「神の御口より出ずる言葉」とはラテン語で“ビバ・ボックス”(viva vox)と言います。「生 命の言葉」という意味です。ルターとカルヴァンが非常に大切にした言葉です。人に真の救 いと生命を与える「生命の言葉」(viva vox)を正しく聴き、真の礼拝を回復することに人間の 本当の救いと真のリベラルと平和があるのです。それこそ私たちの教会が初代教会いらい受 け継いでいる生命であり、全ての教会の根幹に関わる大切なことなのです。 今朝のエゼキエル書に、巻物を「食べる」という御言葉が出てきます。「あなたの口を開い て、わたしがあなたに与える巻物を（御言葉を）食べなさい」と主なる神はエゼキエルに命 じたまいます。2章8節から3章3節までの僅か6節の間に「食べる」という言葉(動詞)が6 回も出てきます。この「御言葉を食べる」とはただ単に御言葉を「読む」こととは違います。 もちろん聖書を学問的に研究するという意味でもありません。聖書をいくら学問的に研究し ても、キリストを主と告白しないような読みかたは聖書の本当の読みかたではありません。 そういう間違ったアカデミズムが聖書学としてまかり通り、そういう立場の学者の書物が「聖 書入門」として書店に並んでいますから、私たちはよく気をつけなくてはなりません。 わが国の教会史、日本の教会の歴史を生涯かけて研究した大内三郎という学者がいます。 この大内氏が50年ほど前、日本宣教100周年を記念して「聖書と日本」という本を書きまし た。この中で大内氏は私たち日本人の聖書の読みかたがいっけん熱心なようでありつつ、実 は決して「御言葉そのものに変革される読みかたではなかった」と語っています。厳しい言 葉ですが大いに反省させられるのです。今朝あわせて拝読した新約聖書ヘブル書4章12節に 「神の言は、生きていて、力があり、もろ刃のつるぎよりも鋭くて、精神と霊魂と、関節と 骨髄とを切り離すまでに刺しとおし、心の思いと志とを見分けることができる」とあります。 私たちはそのようなものとしていつも御言葉に親しんでいるかどうか、聴いているか否かと いうことです。聖書を読むことは、その御言葉によってキリストに出会いキリストの贖いに 生かされてゆくことです。キリストと共に歩む者とされ、神の国の民とされることなのです。 今朝のエゼキエル書をよく読みますと、3章2節には主なる神がエゼキエルに御言葉を「食 べさせた」とあります。つまりエゼキエルがしたことは「口を開いたこと」だけです。その 開かれた口に主なる神は御言葉を「食べさせ」て下さった。すると3節の終わりに「わたし がそれを食べると、それはわたしの口に甘いこと蜜のようであった」と記されています。こ の「甘い」とは「これこそ人を生かす救いの言葉である」という意味です。言い換えるなら、 私たちは教会に結ばれた生活の中で聖書を正しく読み、そこで人類の全ての罪を担って十字 架にかかって下さった神の御子イエス・キリストに出逢うのです。まことの神がこの世界を 救うためになして下さった御業を知るのです。その主の御業が私たちの口に「蜜のように甘 い」と言われているのです。「これこそ人を生かす救いの言葉である」と宣言されているので す。エゼキエルは紀元前586年から534年までのバビロン捕囚の悲劇を同胞イスラエルの 人々と共に経験し、その歴史的民族的悲劇の中で主にある真の国家の再建・人間を生かしめ る真の希望と礼拝の回復を語りました。そのエゼキエルの全生涯の要となった出来事こそこ の3章3節の「神の御言葉を食する」という出来事でした。紀元前594年のことです。 先年天に召された永井修牧師が語っておられたことです。南洋のある孤島にドイツ人の宣 教師が伝道をして教会を建てた。その島の住民はただ聖書だけが唯一の読み物だったそうで す。そうしてその島はどうなったかと申しますと、犯罪という者が全くない、家に鍵をかけ ることもない、嘘をつく者もいない、真の道徳と自由を身につけた人々の生きる島になった ということです。神の御言葉である聖書以外にこのような力を持つ書物はないのです。聖書 のみが「生命の言葉」なのです。どうか私たちは現代の難しい困難なこの時代にありまして、 いよいよ聖書に親しむ生活を送って参りたいと思います。いま私たちを救う真理の言葉とし て、これを食べて腹におさめ、これによって神と共にある希望の人生、キリストに贖われた 幸いと自由の人生を生きて参りたいと思います。そして真の礼拝を献げ続け、御言葉に養わ れ生かされ、この「生命の言葉」を全ての人々に宣べ伝える群れであり続けたいと思います。