説 教 詩篇51篇10〜12節 ヨハネ福音書14章15〜17節「真理の御霊」
２０１０・０３・２８（説教１０１３１３１７） 主イエス・キリストは私たちが神の言葉を信じて生きる者となるために「真理の御霊」 を与えると約束されました。今朝の御言葉であるヨハネ伝14章15節以下です。すなわち 特に16節において主はこう言われました「わたしは父にお願いしよう。そうすれば、父 は別に助け主を送って、いつまでもあなたがたと共におらせて下さるであろう。それは真 理の御霊である。この世はそれを見ようともせず、知ろうともしないので、それを受ける ことができない。あなたがたはそれを知っている。なぜなら、それはあなたがたと共にお り、またあなたがたのうちにいるからである」。 ここで主イエスが教えておられることは３つの事柄です。�＼士遒蓮嵜人�の御霊」とし て父なる神のみもとから「送られる」ということ。�△靴�し「この世はそれを見ようとも せず、知ろうともしないので、それ（真理の御霊）を受けることができない」ということ。 そして��その「真理の御霊」は「いつまでもあなたがたと共にいる」かたであり「あなた がたと共におり、またあなたがたのうちにいる」かたであるということです。 まず第一の事柄について、主イエスの御言葉を聴きましょう。私たちは意外に聖霊をわ かっているようで、実はよくわかっていないのです。それは日本語の「霊」という言葉が 「ほのかなもの」「かそけきもの」を現わすからです。だから私たちは「霊」と聞くとすぐ に“不確かなもの”または“実体のないもの”だと考えやすいのです。しかし聖書におい て「御霊」すなわち「聖霊」という場合、それは最も確かなもの、力強いもの、生きて働 きたもうかた、真に実在するかたを現わすのです。 ですから主イエスは「神は霊であるから、礼拝する者も、霊とまこととをもって礼拝せ ねばならない」と言われたのです。ヨハネ伝4章のあのサマリヤの女性との対話の中で語 られたことです。サマリヤの女性は魂の暗い旅路を彷徨い続けていました。どこにも彼女 の悲しみと苦しみを受け止めてくれる人はいませんでした。そそこに主イエスが来て下さ いました。そして主イエスみずから異邦人である彼女に「わたしに水を飲ませて下さい」 と一杯の水を所望なさり「生ける水」をめぐる生命の対話が始まりました。彼女は主イエ スの御言葉によって「まことの礼拝者」となるためにはどうしたら良いのかという、人間 にとって最も大切な生命の問題に導かれます。そこで主イエスが彼女に明らかにされたの が「神は霊である」という言葉でした。 「神は霊である」。ここで主イエスが彼女に言われたのはこういうことです。あなたは「神」 よりもあなたの「罪」のほうが強いと思ってはいないだろうか。「神の力」よりもあなたを 支配する「罪の力」のほうが大きいと考えてはいないだろうか。それは間違いである。た とえあなたの罪がどんなに大きくても、そのあなたを救われる神の愛のほうが遥かに大き いのだ。たとえあなたの病がどんなに深くても、あなたを贖って御国の民として下さる神 の力のほうが遥かに強いのだ。だからあなたは神の御手にあなたの全てを投げ出しなさい。 あなた自身を主なる神に委ねなさい。そうすればあなたはそこで、神の力によって健やか に立ち上がり歩むことができる。なぜなら「神は霊である」からだ。主イエスが言われる 「神は霊なり」とはそのような意味であります。 私たちはいま、このサマリヤの女性と同じ救いに、主の御身体なる教会を通してあずか る者とされています。なぜなら私たちは、主なる神の聖霊を日々の生活の中でキリストに よって与えられつつ生きているからです。その最も確かな証拠は使徒パウロが言うように、 私たちが「イエスは主なり」と告白する群れであることです。「だれでも聖霊によらなれけ れば『イエスは主なり』と告白することはできない」。すなわち聖霊（真理の御霊）とは、 私たちの測り知れない罪を贖い、私たちに「イエスは主なり」との生きた信仰を与える“神 の救いの力”そのものなのです。すなわち「神は霊なり」との言葉と今朝のヨハネ伝14 章17節の「真理の御霊」という言葉は、同じ“神の救いの力”であることにおいて一つ の福音の真理を現わしているのです。 論語に「朋友あり遠方より来る。また嬉しからずや」とあります。遠い処にいる友がわ ざわざ訪ねて来てくれることほど嬉しいことがあろうかと言うのです。それならばまして や、いと高き聖なる神ご自身が私たち罪人のもとに訪ねて来て下さるのなら、その喜びは 譬えようもないのではないでしょうか。それこそまさに聖霊（真理の御霊）によって現実 とされている出来事です。それが「神は霊である」と主が言われる福音の真理です。私た ちのところに主なる神ご自身が訪ねて来て下さるとは考えられないことです。私たちの理 解を超えた出来事です。 しかし、まさにその私たちの理解を超えた恵みの出来事が「真理の御霊」によって、私 たちのただ中にいま起こっているのです。主イエスは「わたしは父にお願いしよう。そう すれば、父は別に“助け主”を送って、いつまでもあなたがたと共におらせて下さるであ ろう」と言われました。それこそ「真理の御霊」であると言われたのです。この「助け主」 とは元々の言葉で申しますと「執成して下さるかた」という意味です。ある聖書では「弁 護者」と訳しています。私たちの罪のために神に対して“執成し”（弁護）をして下さるか たが私たちのために「いつまでも共に」いて下さる。そのかたこそ「真理の御霊」である と言われるのです。 これはどういうことでしょうか。「弁護」とは法廷（裁判所）でなされるものです。弁護 が必要なのは「罪」を糾弾されている人です。罪を糾弾される人とはほかならぬ私たち自 身です。私たちはたとえ人に対して「自分には罪はない」と言い切ることはできても、主 なる神に対してはできません。主なる神の前には測り知れない「罪」ある存在でしかない 私たちです。その私たちのもとにどうして、神ご自身が訪ねて来て下さることがあり得る のか？。答えはただひとつです。そこで私たちのために聖霊（真理の御霊）が弁護者とし て立っていて下さるからです。そして私たちのために矢表に立って、私たちの身代わりと なって神の御怒りを受けて下さったかた（キリスト）が私たちのために“執成し”て下さ るからです。だから私たちは主なる神と共に喜んで立ち歩む者とされているのです。神の 愛の内を歩む者とされているのです。 それこそいま現実に、主イエス・キリストによって「真理の御霊」を通して私たちの身 に起こった出来事なのです。測り知れない罪人なる私たちのために、神の永遠の御子なる キリストみずから、その罪の贖いのために呪いの十字架におかかり下さったことにより、 私たちは主なる神の御前に喜んで立ちうる者とされているのです。それこそ十字架の主な るイエス・キリストが御父に願われて「真理の御霊」を私たちに与えて下さったことによ るのです。言い換えるなら、主イエスは「真理の御霊」によってご自身を私たちに与えて 下さったのです。だからこそそれは「執成して下さるかた」「弁護者」と呼ばれるのです。 だから宗教改革者ルターは「十字架においては、神が神に対して戦っておられる」と申 しました。聖なる神の正しい審きに対して、その審きを受けるべき罪人なる私たちのため に、その審きを身代わりに引き受けて下さるかたが「弁護者」として立っておられる。そ れがルターが観た十字架の真実でした。私たちは神に愛されて当然の存在ではない。私た ちのどこを見ても神の愛を受けるに相応しいものは何ひとつないのです。私たちの中には 神の御心に適うものは何ひとつなく、たえず叛き神から離れてゆく私たちです。そのよう な私たちのために御子イエス・キリストみずから「罪」の赦しと永遠の執成しと贖いを、 あの恐るべき十字架の上で成しとげて下さった。父なる神の永遠の審きをキリストが引き 受けて十字架に死んで下さった。そこに私たちに与えられている救いの確かさ、そして「イ エスは主なり」と告白する者に与えられている永遠の生命の確かさがあるのです。 「真理の御霊」は十字架の主イエス・キリストを信じ、ただその福音のみを証する群れ をここに建てます。この「真理」とはイエス・キリストご自身のことです。すなわち「真 理の御霊」とは「キリストを証する聖霊」のことなのです。聖霊は私たちをキリストに結 び合わせ、信ずる者の群れであるキリストの御身体を建てるのです。そして建てられたこ の群れに連なる私たちは、そこで「聖霊の宮」と呼ばれます。「真理の御霊」によって「イ エスは主なり」と告白する私たちは、同時に世の人々に対して「聖霊の宮」とされている ことを忘れてはなりません。私たちがこの世に対して「聖霊の宮」とされているというこ とは、私たちがその弱さや失敗のあるがままにキリストの愛の内を歩む者とされているこ とです。私たちは自分の清さや正しさを誇る群れではありません。そうではなく、私たち は私たちを生命を献げて贖い取って下さったイエス・キリストのみを誇るのです。私たち を活かすものは自分の義ではなくキリストの義のみなのです。 それだからこそ、主イエスは「この世はそれ（真理の御霊）を見ようともせず、知ろう ともしないので、それを受けることができない」と言われました。つまりこの世を支配し ている法則と神の民が生きる法則は根本的に違うのです。この世は自分の正しさのみを求 め、それを誇示して相手を審きます。自分の清さを誇り磨きをかけることを喜びます。し かし私たち神の民はそうではありません。私たちは十字架の主を信じることにより、私た ちがどんなに大きな罪の中にあったかを知りました。私たちの罪は永遠の聖なる神の御子 が血を流し、ずたずたになって死んで下さらなければ贖われえなかったほど大きなものな のです。この十字架の主の恵みを知った私たちはもはや自分の正しさを誇ることなどでき ません。神によって一万タラントの負債を赦された者は百デナリの負債ある兄弟を審くこ とはできないのです。 ですからここで主が言われる「見る」ことと「知る」ことは知識ではなくキリストを信 じる「信仰」を意味します。この世はたとえ知識があってもキリストを信じることがない かぎり決して「真理の御霊」を受けることはできません。逆に言うならイエスを主（キリ スト）と信ずる信仰があるなら、どのような人も例外なく「真理の御霊」を受けることが できるのです。否、すでにキリストの愛を知りたいと願い、キリストの恵みを求めて生き るなら、その人は今ここに「真理の御霊」を受けつつ歩んでいるのです。「真理の御霊」は 人生の旅路においてキリストを求める全ての人に注がれているのです。 大切なことは、主が「あなたがたはそれを知っている。なぜなら、それはあなたがたと 共におり、またあなたがたのうちにいるからである」と言われたことです。この「共にお り」とは直訳すれば「真理の御霊がいつもあなたがたと共に住んでおられる」という意味 です。「真理の御霊」なる聖霊によって神ご自身が私たちのもとを訪ねて下さったのです。 私たちが生きるかぎり、否、死を超えてまでも、神は聖霊によって「執成して下さるかた」 「弁護者」として私たちと共に住まわれ、私たちと共にいて下さるのです。全てにまさる 喜びと幸いがここにあるのです。 かつてイスラエルの王ダビデは、取り返しのつかない大きな罪の中から主なる神に祈り を献げました「神よ、わたしのために清い心をつくり、わたしのうちに新しい、正しい霊 を与えてください。わたしをみ前から捨てないで下さい。あなたの救いの喜びをもってわ たしを覆い、自由の霊をもって、わたしを支えてください」。私たちの内には私たちを活か す「清い心」はないのです。「新しい、正しい霊」は私たちの中にはないのです。だからダ ビデはそれを神に求めてやみませんでした。主に救われた者の喜び、キリストに贖われた 者の幸いをもって、存在と人生の全体が「覆われる」ことを願い、ただその慈しみによっ て「支えられる」ことを求めたのです。 私たちはダビデとあのサマリヤの女性と共に知る者とされています。私たちの内にも何 ひとつ私たちを義とするものはないことを。しかし私たちは全てにまさる唯一の恵みの事 実を知っているのです。神の御子イエス・キリストが私たちの唯一の贖い主であられる。 その恵みは永遠に変ることはないのです。神の恵みは私たちの罪よりも常に大きく、キリ ストの愛は私たちの破れを覆うことを知っているのです。十字架のキリストを信じ告白し ているのです。それこそ「真理の御霊」による告白です。私たちはこの告白「イエスは主 なり」との旗印のもとにたえず一つとされ、ここに真の教会形成の幸いな務めを与えられ ているのです。