説 教 レビ記16章6〜10節 ヨハネ福音書14章7〜11節「神を見るとは」
２０１０・０３・１４（説教１０１１１３１５） 教会暦すなわち教会の暦の中で「三位一体主日」と呼ばれる日があります。今年は5月30 日(日)がそれにあたります。ペンテコステ（聖霊降臨日）の次の日曜日です。父なる神、御 子イエス・キリスト、そして聖霊、この３つの位格は独立しつつ、なお唯一の神にいました もう。それが「三位一体」の教理です。この父、御子、聖霊はそれぞれ� 峙賁鸚蚕顱廰◆嵜� 約聖書」��「使徒たちの教会」という３つの時代を現わしています。すなわち旧約聖書の時 代には父なる神が、新約聖書の時代には主イエス・キリストが、そして使徒たちの教会の時 代には聖霊が、歴史の中に御業を現わされたのです。 もちろん父・御子・聖霊なる神は３つにして唯一なる神ですから、旧約・新約そして教会 の時代においても常に父、御子、聖霊が唯一の神として崇められ礼拝されてきたのです。し かし強調点を使徒以来の「聖なる公同の教会」を受け継ぐいまの私たちの時代にあてはめる とき、現代は“聖霊の時代”だと言えるのです。 ではいまここに集う私たちに、神は聖霊によってどのような福音を告げておられるのでし ょうか？。それは何よりも“父なる神と御子イエス・キリストとの関係”なのです。それは 聖霊は自らについてではなく、父なる神と御子イエス・キリストとを証する（明らかにする） からです。その意味で毎週の礼拝が「三位一体主日」なのです。父なる神と御子なるイエス・ キリストとの関係が、私たちの全ての者の救いと自由と喜びに直結しているのです。 なによりも今朝の御言葉であるヨハネ福音書14章7節以下で、私たちの主イエス・キリ ストはこう語られました。「もしあなたがたがわたしを知っていたならば、わたしの父をも知 ったであろう。しかし、今は父を知っており、またすでに父を見たのである」。 ここで主が言われる「父を知っている」とは“神を信じている”という意味です。だから それは私たちにも「よくわかる」と感じられるのです。事実私たちは神を信じているから教 会に連なっています。礼拝をささげています。洗礼を受け信仰告白をしたのです。あるいは 神を求めてここに来ています。しかし主イエスはそれに加えて、ここに「（あなたがたは）す でに父を見たのである」と語っておられるのです。この御言葉には私たちは驚かざるをえな いのではないでしょうか。戸惑いをさえ感じるのです。私たちのいったい誰が「父（なる神） を見た」などと言えるでしょうか。「神を見る」とは大変なことではないか。特別な、稀な、 奇跡に近い事柄のように私たちには思えるからです。 だからこそ弟子の一人ピリポはすぐに主イエスに申しました「主よ、わたしたちに父を示 して下さい。そうして下されば、わたしたちは満足します」と。主よ、私たちにはあなたが 言われるように「父なる神を見る」ことなどはできません。だからどうかあなた自らが私た ちに父なる神を見せて下さい。そうすれば私たちは「満足」するでしょう。そのようにピリ ポは言うのです。 譬えて言えばこういうことです。「映画を観なさい」と言われてもスクリーンに何にも映っ ていなければ観ることはできない。だからどうかまずスクリーンに映画を映し出して下さい。 そうすれば私たちは誰でも映画を見ることができる。今は観たくても何も映っていないので 見ることができません。ピリポが「父を示して下さい」と願ったのはそういう意味です。ま ず主イエスみずから私たちに父なる神を「示して」（見せて）下さい。そうすれば私たちは見 て「満足」するはずですと言ったのです。 このピリポの求めに対して、主は今朝の9節以下にこのようにお答えになりました。「イ エスは彼に言われた、『ピリポよ、こんなに長くあなたがたと一緒にいるのに、わたしがわか っていないのか。わたしを見た者は、父を見たのである。どうして、わたしたちに父を示し てほしいと、言うのか。わたしが父におり、父がわたしにおられることをあなたがたは信じ ないのか。わたしがあなたがたに話している言葉は、自分から話しているのではない。父が わたしのうちにおられて、みわざをなさっておられるのである。わたしが父におり、父がわ たしにおられることを信じなさい。もしそれが信じられないならば、わざそのものによって 信じなさい』」。 ここに主イエスが語られたことは３つのことです。� 屬錣燭靴鮓�た者は父なる神を見た のである」ということ。�◆屬錣燭靴�語った言葉は、私の言葉ではなく、父なる神御自身の 御言葉である」ということ。��「わたしが父におり、父がわたしにおられることを信じなさ い」ということです。 まず�，痢屬錣燭靴鮓�た者は父を見たのである」とは、主イエスご自身しばしば弟子たち に語って来られたことです。それにもかかわらず弟子たちは十分に理解していませんでした。 言い換えるなら、主イエスがまことの神の御子であられることを弟子たちは本当には信じて はいなかったということです。実はこのことは福音の本質にかかわる非常に大切なことなの です。 私たちの葉山教会は、全世界の主にある全ての教会と共に、381年に制定されたニカイア・ コンスタンチノーポリス信条を告白しています。このニカイア信条の制定には大変な戦いが ありました。325年に第一回目の「世界教会会議」がニカイアで開催されたとき、当代きっ ての大神学者アリウスがキリストについて「神に最も近づいた人間である」と語りました。 会議の流れはこのアリウスの説に傾きつつありました。そのとき若干24歳であったアレク サンドリアのアタナシウスが異議を唱え発言を求めたのです。アタナシウスの反論はこうい うものでした。もしアリウス言うように、キリストがまことの神ではなく、ただ神に最も近 い人間だということになれば、キリストによる救いとは人間に基づく救いになる。すると私 たちの救いは神からのものではなくなり、それは聖書の語る福音には反する。それがアタナ シウスの反論でした。 アタナシウスは続けて言いました。キリストは神に最も近い人間などではなく、まことの 神のまことの独り子であられる。すなわちキリストが世に来られたのは神ご自身の来臨であ り、そのかたが私たちの罪の赦しと贖いのために十字架にかかって死んで下さった救い主で ある。その結果アリウスの所説は斥けられ、アタナシウスの原案に基づいてニカイア信条が 制定されることになりましたす。私たちはこのニカイア信条に告白された正統的信仰を受け 継いで、1700年後の今日も旗印として高く掲げつつ、イエス・キリストのみを「まことの神 のまことの御子」と告白し、キリストにのみ全世界の救いがあることを宣べ伝えているので す。 そうしますと�△了�柄「わたしが語った言葉は、わたし言葉ではなく、父なる神御自身の 御言葉である」という主イエスの御言葉の意味もまた明らかになるのです。主イエスと父な る神は、全く御心を一つにしておられる。両者の間にいかなる矛盾もないのです。私たちは 違います。私たちは神の御心から常に離れ、御心に叛いている者です。神から離れた生活に 慣れてしまい、自分の利益や幸福や満足を人生の目的としています。この人生に深い尊い意 味があることを忘れ、自分の願いが適うことだけを求めている私たちです。しかし神の御心 は遥かに高いところにあって、安穏たる境遇に満足しようとする私たちを御言葉をもって励 まし、養い、鍛え、導いて、キリストと共に御国の幸いと祝福を与えようとしておられるの です。「御国を賜わることこそ、汝らの天の父の御心なり」と告げていて下さるのです。 私たちの人生には、私たちの想いを遥かに超えた深く尊い意味があるのです。エノクやエ リヤのような例外はありますが、私たちはダイレクトに天国に入るのではない。それぞれの 人生というかけがえのない世の旅路を通ってのみ天の御国に入る者なのです。そこでこの世 界は神の創造したもうた、神の祝福しておられる世界です。私たちはそこで何よりもまず罪 の支配に対して死ななくてはならない。古きおのれを脱ぎ捨て、イエス・キリストの義とい う新しい復活の生命に覆われなくてはなりません。それが神の御言葉を信じることです。 つまり、ただキリストの御言葉、キリストの御業、キリストの十字架によってのみ、私た ちは罪を贖われ、新しい御国の民（神の子）とされるのです。直接無媒介的にではなく、神 と人との唯一の仲保者なるキリストの「義」にあずかることによって、私たちははじめてこ の人生がどんなに尊い意味と目的を持つものであるかを知るのです。それはひと言で申しま すなら、私たちは神がご自身の独り子イエス・キリストを世に賜わったほど神に愛されてい る存在だということです。もし私たちの人生（私たちの存在）が誰かの犠牲の上に成り立っ ていると知れば、それだけでも私たちの生活は変わるはずです。それならば、私たちの存在 はキリストの十字架という尊い犠牲の上に成り立っているのです。 大切な��として、主イエスは私たち一人びとりに生きたまことの「信仰」を求めておられ ます。「わたしが父におり、父がわたしにおられることを信じなさい」と主が言われたことで す。主イエスと父なる神とがひとつであられること。父・子・聖霊なる三一の神のみがいま すこと。それを頭や理屈ではなく心で“信じる”ことが福音信仰の肝心要です。今から150 年ほど前イギリスにジョン・ヘンリー・ニューマンという立派な神学者がいました。ある人 がこのニューマンに申しますには「自分は三位一体がどうしても理解できない」。ニューマン はこの人に答えて「まず三位一体を信じなさい。信じれば三位一体がわかるであろう」と答 えたそうです。三位一体という福音の奥義は理詰めで「わかる、わからない」という次元の 問題ではありません。それは崇高にして聖なる慈愛に満ちたもう神の御姿なのですから、ま ず「アーメン」と信じるほほかにないのです。「われは父・御子・聖霊なる三位一体の神を信 ず」と告白するほかはないのです。 福音においては信仰が理性に先立ちます。福音を知ろうとすればまず福音を信じなければ なりません。それは水泳を覚えようとする者がまず水に飛びこまねばならないのと同じです。 畳の上の水練ではいつまで経っても水泳は身に付かないのと同じように、キリストを知ろう と欲する者はまずキリストを信じるべきなのです。信じるとは神の御業をあるがままに、こ の私への限りない“救いの出来事”として受け入れることです。神の御業に対して「アーメ ン」と告白することです。福音についての必要なあらゆる理解は信仰に始まり信仰において 完成するのです。だから主は言われました「まず神の国と神の義とを求めよ。さらばその他 のものはすべて添えて与えられん」と。私たちは何よりもまず「神の国と神の義」とを求め たいのです。父なる神が主イエスと共におられ、主イエスが父なる神と共におられること。 言い換えるならキリストと父なる神とが同質（本質を同じくしたもう）ことを信じる者とし て、主の教会に連なり真の礼拝者となり、福音の自由と喜びに生きる者として、世の旅路へ と雄々しく遣わされてゆきたいものです。 今朝の御言葉の最後に、主はいみじくも言われました。11節の後半です「もしそれが信じ られないならば、わざそのものによって信じなさい」と…。御父と主イエスとが一体である ことが「わからなくなる」とき、すなわち父・御子・聖霊なる神がわからなくなるとき、あ なたは何よりも「わざそのもの」に心を向けなさいと主は言われるのです。それはどういう ことでしょうか。その「わざ」とは何でしょうか？。 それは、父なる神と御子と聖霊が、私たちの救いのために（あなたの救いのために）なし て下さった全ての御業のことです。すなわち世界創造と摂理のわざ、主イエスの御降誕と御 生涯、十字架の苦しみと死と葬りと復活と昇天、そして聖霊による教会の設立。私たちのた めに神がなして下さったこの全ての「わざ」が「あなたのためになされた救いのわざである ことを信じなさい」と主は語られるのです。測り知れない罪の内にあって、神から離れ神に 叛き、神を“見る”ことができなくなっていた私たちです。その私たち全ての者の罪の赦し と贖いのために、主イエス・キリストは十字架に死んで下さいました。そこにおいて起こっ た全ての救いの出来事、つまりあなたのための「わざ」を信じる者になりなさい。そして神 の愛と平安の内を歩む者になりなさい。そのように主はいま私たちに御言葉を告げておられ る。私たちと共にいて下さるのです。御言葉を信じる私たちを、まことの神の御姿を見、ま ことの神の導きと祝福のもとを生きる者として下さるのです。 「わたしを見た者は、父を見たのである」。キリストを信じて生きる私たちは、すでに父な る神を、そして聖霊を知っているのです。見ているのです。三位一体なる神の永遠の愛の交 わりの中に入れられているのです。それがこの教会です。教会とは三位一体なる神の永遠の 交わりの歴史に於ける現れです。私たちはこの教会生活、礼拝者としての歩みの中で、いつ も「神を見る者」とされているのです。